next up previous contents
: 可換方向への変形 : 曲面の非可換変形のいくつかの例について : 非可換スキームをつくろう。   目次


可換スキームの非可換スキームとしての無限小変形

三種類の無限小変形 $ X$$ {\Bbb C}$ 上の可換スキームとする。$ X$ の一次の無限小変形を考えよう。 $ X$ $ {\Bbb C}[\epsilon]/(\epsilon^2)$ 上の非可換スキームに延長しようと言うわけである。 これには要は $ X$ 上の加群の層 $ {\mathcal O}_X+{\mathcal O}_X\epsilon$ $ {\Bbb C}[\epsilon]$-双線型な 乗法 $ m_\epsilon$

% latex2html id marker 2729
$\displaystyle m_\epsilon(f,g)=fg+\epsilon \beta (f,g) \quad (f,g \in {\mathcal O}_X)
$

という具合に定義し、この乗法が結合律を満たすようにすればよい。 (ここでは暗黙のうちに次の二つの仮設がおかれている。
  1. 無限小変形においては、 関数環の線型空間としての「サイズ」は元の物と変わらない。
  2. $ \epsilon$ は 新しく作った層の元と可換である。
二番目の仮設については、モデュライ空間の可換な部分のみを眺めている ことに当たるので、将来は見直さねばならないと思われる。)

さて、 $ m_\epsilon$ が結合律を満たすための条件を書き下してみると、 $ \beta$ があるコサイクル条件を満たすべし、と言うかたちに落ち着く のがわかる。このコサイクルを然るべき同値類で類別したものは ホッホシルトコホモロジーの言葉で $ H^2({\mathcal O}_X,{\mathcal O}_X)$ と書かれるものである。 あるいは別の言葉で言えば上のことは $ {\mathcal O}_X$ $ {\mathcal O}_X$ による拡大を考えている ことに当たるので、 $ H^2({\mathcal O}_X,{\mathcal O}_X)$ の変わりに $ \operatorname{Ext}^2_{{\mathcal O}_X^{\operatorname{b}}}({\mathcal O}_X,{\mathcal O}_X)$ ( $ {\mathcal O}_X^{\operatorname{b}}={\mathcal O}_X\otimes_{\Bbb C}{\mathcal O}_X$) と書いても良い。両者は同じものである。

この $ \operatorname{Ext}^2$ をもう少し見慣れたもので表現することを 考えてみよう。導来函手の間の等式

   $\displaystyle \mbox{${\Bbb R}$}$$\displaystyle \operatorname{Hom}_{{\mathcal O}_X^{\operatorname{b}}}({\mathcal O}_X,{\mathcal O}_X)
=$   $\displaystyle \mbox{${\Bbb R}$}$$\displaystyle \operatorname{Hom}_{{\mathcal O}_X}
({\mathcal O}_X\bigotimes^{\Bbb L}_{{\mathcal O}_X^{\operatorname{b}}}{\mathcal O}_X, {\mathcal O}_X)
$

により、スペクトル系列

$\displaystyle \operatorname{Ext}^i_{{\mathcal O}_X^{\operatorname{b}}}({\mathca...
...e{Ext}^{i+j}_{{\mathcal O}_X^{\operatorname{b}}}({\mathcal O}_X,{\mathcal O}_X)$ (5.1)

が得られる。$ X$ がスムースなら、

$\displaystyle {\mathcal{T}or}_j^{{\mathcal O}_X^{\operatorname{b}}}({\mathcal O}_X,{\mathcal O}_X)\cong \Omega_X^j
$

と言う同型がある。(特に、これらの層はフラットである)

正確な条件は何だったか忘れたが、 $ X$ が良いものの場合には上のスペクトル系列(5.1) は退化する。したがって、一次の無限小変形をパラメトライズする空間は

$\displaystyle \operatorname{Ext}^2_{{\mathcal O}_X^{\operatorname{b}}}({\mathca...
...
\cong H^0(\Omega_X^{2*}) \oplus H^1(\Omega_X^{1*}) \oplus H^2({\mathcal O}_X)
$

($ *$ は 双対加群をあらわす)と分解する。 すなわち、スキームの(非可換)無限小変形は大きく三つの種類に分かれる。 この三つについて、それぞれ対応する変形がどういうものか 、無限小変形ではなく本当の変形で実現することに注意を払いながら、 以下の数節で様子を見る事にする。

以下の議論での引用のためにここで二次元射影非可換スキームに関する 次の予想を載せておく。

Conjecture of M. Artin ([2])

Let $ k$ be an algebraically closed field of characterstic zero, and let $ A$ be $ k$-algebra of dimension 3 sastisfying the ``good'' properties. Then one of the following holds:

(i).
$ X=\operatorname{Proj}A$ is finite over its center,
(ii).
$ X$ is q-rational, or
(iii).
$ X$ is q-ruled.
(ステートメントは一部 省略してある。 ``good'' がどのような意味か、等詳しくは原論文を参照のこと。)

容易に想像がつくように、q-rational, q-ruled な非可換スキームとは それぞれ rational, ruled な(通常の)曲面の変形に当たる。 上の予想は、それ以外は可換スキームに毛を生やしたようなもの (可換スキーム上の代数の層)しかないと主張している。



平成15年9月1日