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複数の多項式による「割り算」

いま、体 $k$ 上の多項式環 $R=k[X_1,\dots,X_n]$ のイデアル $I=(f_1,\dots,f_l)$ が与えられているとして、 $h_i=\operatorname{Head}(f_i)$ とおくことにする。

$g\in R$ に対して次のような操作を考える 。

(操作) $g$ の項のうち $h_i$ の倍数 $mh_i$ になっているものがあったとする。このとき、

\begin{displaymath}g'=g-mf_i
\end{displaymath}

を考える。

$g$$g'$ との違いは、$g$$mh_i$ の項がそれより小さい項の和 ( $m(f_i-h_i)$)で置き換わっているところである。 今度は $g'$ についてこの操作をおこなって $g''$ を計算し、...というぐあいに この操作を繰り返すと有限回で

\begin{displaymath}T=\{p \in R; \text{$p$\space に現れるどの項も、どの $h_i$\space でも割り切れない。} \}
\tag{★}
\end{displaymath}

に入る元が得られる。 その結果得られた $T$ の元を「$g$ $f_1,\dots,f_n$ の割った余り」とよぶ。 「割り算」の結果はつぎのように整理することができる。

\begin{displaymath}g=\sum_i q_i f_i + r
\end{displaymath}

ここで、$r$ は「余り」で、$T$ の元。$q_i$ は「商」にあたるもので、

\begin{displaymath}\operatorname{Head}(g)\geq \operatorname{Head}(q_i f_i) \qquad (\forall i)
\end{displaymath}

がなりたっている。

上記の $T$$k$ 上のベクトル空間であり、 さらに上の説明によって

\begin{displaymath}R=T+I
\end{displaymath}

であることがわかる。 そこで $R$ の元を上の式のように $T$ の元と $I$ の元に分けるのが、「割り算」 の基本的な考え方である。問題はそのような分け方の一意性にある。

Yoshifumi Tsuchimoto
2001-05-24