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代数学II 要約 No.4

今日のテーマ:

\fbox{1変数多項式環とその剰余環(2), ${\Bbb F}_p$\ の単純拡大体}

先週、次の定理が残ってしまっていた。

定理 4.1 (定理3.2 とおなじ)   体 $ k$ 上の多項式 $ f,g\in k[X]\setminus\{0\}$ に対して、次のような 多項式 $ a,b,d \in k[X]$ が存在する。
  1. $ d$$ f,g$ の公約数である。(すなわち、 $ f,g \in d k[X]$)
  2. $ af +bg=d$.

次の系は有限体(等いろいろな体)を作る際の基本である。

系 4.1   $ k[X]$ の元 $ p(X)$ が既約(つまり、$ p(X)$ の約数は $ p(X)$ 自身の定数倍か、定数 に限る)ならば、 $ k[X]/p(X)k[X]$ は体である。

$ k$ が有限体 (例えば、 $ {\Bbb F}_p$) ならば上の補題のようにして作られた体は必然的に有限体になる。

$ K=k[X]/p(X)k[X]$ での $ X$ のクラスを $ \xi$ と書くと、$ K$$ k$$ \xi$ という一つの元を付け加えた体になっている。このような体を $ k$ の単純拡大体 と呼ぶ。

$ k[X]$ の既約元を発見する方法についてはあとあと述べる予定であるが、 取りあえず次のことぐらいはとりあえず知っておくとよいだろう。

補題 4.1   $ k[X]$ の元 $ f$ の次数が $ 2$ または $ 3$ であり、 かつ $ f(a)=0$ となるような $ a\in k$ が存在しないならば、 $ f$ は既約である。

この段階で, 有限体の演算の実際について知っておくのも悪くはなかろう。 加、減、乗算についてはそんなに難しくはないと思われるので、 ここでは 0以外の元の逆元の計算法について簡単に触れておく。 要はユークリッドの互除法であって、代数学I ですでに目にしているはずである。 まずユークリッドの互除法の簡単な復習から。

例題 4.1 (ユークリッドの互除法)   等式

$\displaystyle 72l+56m=8
$

を満たす整数 $ l,m$ の組を一組求めよ。

(解答) まず次のような計算を行なう

  $\displaystyle 72$   $\displaystyle \div$ $\displaystyle 56$ $\displaystyle = 1$    余り  % latex2html id marker 925
$\displaystyle 16 \qquad\qquad$ $\displaystyle 72=$ $\displaystyle 56$ $\displaystyle \times 1 +$ $\displaystyle 16$ % latex2html id marker 930
$\displaystyle \qquad\qquad \begin{pmatrix}72\\ 56 \e...
...\begin{pmatrix}1 & 1\\ 1 & 0 \end{pmatrix} \begin{pmatrix}56\\ 16 \end{pmatrix}$    
  $\displaystyle 56$   $\displaystyle \div$ $\displaystyle 16$ $\displaystyle = 3$    余り  % latex2html id marker 935
$\displaystyle 8 \qquad\qquad$ $\displaystyle 56=$ $\displaystyle 16$ $\displaystyle \times 3 +$ $\displaystyle 8$ % latex2html id marker 940
$\displaystyle \qquad\qquad \begin{pmatrix}56\\ 16 \e...
... \begin{pmatrix}3 & 1\\ 1 & 0 \end{pmatrix} \begin{pmatrix}16\\ 8 \end{pmatrix}$    
  $\displaystyle 16$   $\displaystyle \div$ $\displaystyle 8$ $\displaystyle = 2$    余り  % latex2html id marker 945
$\displaystyle 0 \qquad\qquad$ $\displaystyle 16=$ $\displaystyle 8$ $\displaystyle \times 2 +$ 0 % latex2html id marker 949
$\displaystyle \qquad\qquad \begin{pmatrix}16\\ 8 \en...
...= \begin{pmatrix}2 & 1\\ 1 & 0 \end{pmatrix} \begin{pmatrix}8\\ 0 \end{pmatrix}$    

各々の行の行列算を組み合わせると、

$\displaystyle \begin{pmatrix}
72\\
56
\end{pmatrix}=
\begin{pmatrix}
1 & 1\\
...
...egin{pmatrix}
2 & 1\\
1 & 0
\end{pmatrix}\begin{pmatrix}
8 \\
0
\end{pmatrix}$

を得る。この式の右辺に現れる正方行列はすべて $ M_2({\mbox{${\Bbb Z}$}})$ の元として 可逆であることに注意して、上の式を次のように変形することが出来る。

$\displaystyle \begin{pmatrix}8 \\ 0 \end{pmatrix}$ $\displaystyle = \begin{pmatrix}2 & 1\\ 1 & 0 \end{pmatrix}^{-1} \begin{pmatrix}...
...n{pmatrix}1 & 1\\ 1 & 0 \end{pmatrix}^{-1} \begin{pmatrix}72\\ 56 \end{pmatrix}$    
  $\displaystyle = \begin{pmatrix}0 & 1\\ 1 & -2 \end{pmatrix} \begin{pmatrix}0 & ...
...gin{pmatrix}-3 & 4 \\ 7 & 9 \end{pmatrix} \begin{pmatrix}72 \\ 56 \end{pmatrix}$    

この式の第一行に着目すると、 $ 8=(-3)\times 72+ 4\times 56
$ を得る。

(答え)     $ l=-3,m=4$.

例題 4.2   $ {\Bbb F}_{31}$ での $ 11$ の逆元を求めよ。

(解答) 上の例題4.1の要領で $ 31 l+11 m=1$ なる $ l,m\in {\mbox{${\Bbb Z}$}}$ を求めることにより、

$\displaystyle 31 \times 5 +11\times (-14)=1
$

を得る。この式の両辺を $ {\Bbb F}_{31}$ のなかで考えると、

$\displaystyle [11]_{31} [-14]_{31}=[1]_{31}
$

すなわち、$ 11$ $ {\Bbb F}_{31}$ での逆元は $ -14(=17)$ である。

問題 4.1   $ K={\Bbb F}_3[X]/(X^3-X-1){\Bbb F}_3[X]$ での $ X$ のクラスを $ \xi$ と書き、 $ a,b\in K$ $ a=\xi^2+\xi+1$, $ b=\xi^2-1$ で定義する。このとき、 $ a+b,a-b,ab, b^{-1}$ をそれぞれ $ \xi$ の2次以下の式であらわしなさい。

問題 4.2   $ K={\Bbb F}_{37}[X]/(X^3-X+2){\Bbb F}_{37}[X]$ での $ X$ のクラスを $ \xi$ と書くとき、 $ K$ での $ 12 \xi^2+5\xi+1$ の逆元を求めなさい。 (なお、この $ K$ は実は体であるのだが、そこまでは示さなくてもよい。)


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2002年5月22日