体論要約 No.8

今日のテーマ:ガロア拡大とガロア群

前回に述べた系7.11 は破壊力のある定理である。 ただし、$K$ が無限個の元をもたなければならないことが少し面倒な条件であった。 じつは、有限個の元しかもたない体(有限体と呼ばれる) は構造がよくわかっていて、その理論を用いて$K$ が有限体の場合を別途調べることにより、系7.11の 仮定を除くことができる。この講義ではその部分は少し省略して、 はじめから系7.11が有限の仮定無しでつかえることを承知して先に進むことにする。

定理 8.1   $K$ の有限次代数拡大体 $L=K(\alpha_1,\alpha_2,\dots, \alpha_t)$$K$ 上ガロア拡大であるための必要十分条件は、生成元 $\alpha_1,\dots,\alpha_t$ が すべて $K$ 上 分離的であり、なおかつそれらの $K$ 上の共役がすべて $L$ 内に存在することである。

このとき $L$$K$ 上一つの元で生成される。 ($L$$K$単純拡大(単拡大もしくは単生成)という言い方もされる。)

定義 8.2 (体の $K$同型,ガロア群)  
  1. $K$ の有限次拡大 $L_1,L_2$ に対して、 $L_1$ から $L_2$ への $K$-同型とは、環は和、積および $K$ の元 を保つもののことをいう。 つまり、写像 $\varphi:L_1\to L_2$$K$-同型であるとは、次の条件を 同時に満足するときにいう。
    1. $\varphi$ は環の準同型である。
    2. $\varphi\vert _K={\operatorname{id}}_K$ .
    $L_1$ から $L_2$ への $K$-同型の全体の集合を

    $\displaystyle \operatorname{Hom}_K^{\operatorname{alg}}(L_1,L_2)
$

    と書く。

  2. $K$ の有限次ガロア拡大 $L$ に対して、

    $\operatorname{Hom}_K^{{\operatorname{alg}}}(L,L)$ は写像の合成について群をなす。この群を $L$$K$ 上のガロア群とよび、

    $\displaystyle \operatorname{Gal}(L/K)
$

    で書き表す。

体の有限次ガロア拡大が与えられると、ガロア群がひとつ定まる。 この群を詳しく調べることにより、体の拡大の様子が手に取るようにわかる。 これがガロア理論の真骨頂である。

ガロア群を計算するときには、

  1. ガロア群の元になりそうなものをすべて挙げる。
  2. それらがガロア群の元になるか、それらで足りているかを元の数の 勘定で確認する。
のステップで行うことが多い。その意味で次の命題は基本的である。

命題 8.3   体 $K$ の有限次ガロア拡大 $L$ に対して、

$\displaystyle \vert G\vert=[L:K]
$

8.4   $\mbox{${\mathbb{Q}}$}$% latex2html id marker 1129
$ (\sqrt{11})$ $\mbox{${\mathbb{Q}}$}$ 上のガロア拡大であって、 そのガロア群の元は % latex2html id marker 1133
$ \sqrt{11}$ の行き先 (% latex2html id marker 1135
$ \sqrt{11}$ or % latex2html id marker 1137
$ -\sqrt{11}$) で定まる。 その結果、

$\displaystyle \operatorname{Gal}($$\displaystyle \mbox{${\mathbb{Q}}$}$% latex2html id marker 1141
$\displaystyle (\sqrt{11}))/$$\displaystyle \mbox{${\mathbb{Q}}$}$$\displaystyle ) \cong C_2$   ($2$次の巡回群)

8.5   $\mbox{${\mathbb{Q}}$}$% latex2html id marker 1151
$ (\sqrt{2},\sqrt{3})$ $\mbox{${\mathbb{Q}}$}$ 上のガロア拡大であって、 そのガロア群の元は % latex2html id marker 1155
$ \sqrt{2}$% latex2html id marker 1157
$ \sqrt{3}$ の行き先 (それぞれ % latex2html id marker 1159
$ \sqrt{2}$ or % latex2html id marker 1161
$ -\sqrt{2}$% latex2html id marker 1163
$ \sqrt{3}$ or % latex2html id marker 1165
$ -\sqrt{3}$) で定まる。 その結果、

$\displaystyle \operatorname{Gal}($$\displaystyle \mbox{${\mathbb{Q}}$}$% latex2html id marker 1169
$\displaystyle (\sqrt{2},\sqrt{3}))/$$\displaystyle \mbox{${\mathbb{Q}}$}$$\displaystyle ) \cong C_2\times C_2$   (2つの $2$次の巡回群の直積。)

問題 8.1   $\operatorname{Gal}({\mathbb{C}}/$$\mbox{${\mathbb{R}}$}$$)$ を求めよ。

定義 8.6   体 $K$ とその拡大体 $L$ が与えられたとき、$L$ の部分体 $M$ で、 $K$ を部分体として含むもののことを $L$$K$中間体と呼ぶ。

補題 8.7   体 $K$ の有限次ガロア拡大 $L$ が与えられているとする。このとき、 $K$$L$ の中間体 $M$ に対し、
  1. $L$$M$ の有限次ガロア拡大でもある。
  2. ガロア群 $H=\operatorname{Gal}(L/M)$ は ガロア群 $G=\operatorname{Gal}(L/K)$ の部分群 とみなすことができる。

○付記         体 $K$ 上のベクトル空間であり、環でもある集合(で、いくつかのcompatibilityを満たすもの)を $K$-代数 ($K$-algebra) とよぶ。$K$-代数 $A,B$ の間の写像 $\varphi$ は、それが $K$-線形写像でかつ環準同型でもあるとき、 $K$-代数の準同型 ($K$-algebra homomorphism) とよばれる。 $A,B$ の間の $K$-algeba homomorphism を $\operatorname{Hom}_K^{\operatorname{alg}}(A,B)$ と書くが、この記法を本講義の体の同型のケースに用いているのである。なお、$K$ は体と限らず、$K$ 自体も一つの環のケースを扱うこともある。 その場合は $K$-algebra hom. は $K$-加群の準同型でかつ ring hom. でもあるものを呼ぶのである。