問題

問題 6.3   $f_1(X)=X^2-6$ $\mbox{${\mathbb{Q}}$}$ 上既約である。

(略解1) [ ${\mbox{${\mathbb{Z}}$}}$ 上に帰着] ガウスの補題により、 ${\mbox{${\mathbb{Z}}$}}$ 上既約であることをいえばよい。 もし $X^2-6$ ${\mbox{${\mathbb{Z}}$}}$ 上可約であれば、 次数の関係を考えると、一次式の積に分解する他はないことがわかる。 最高次の係数を比べることにより、それらの一次式は(符号の調整後)モニックである ことがわかるから、

% latex2html id marker 2233
$\displaystyle X^2-6=(X-a)(X-b) \qquad(\exists a,b\in {\mbox{${\mathbb{Z}}$}})
$

さらに、一次の項をくらべれば、$b=-a$ であって、

$\displaystyle a^2=6
$

これを満たす整数 $a$ は存在しない(大きさの比較により、$\vert a\vert<10$ で、 あとは全数調査。もちろんもっと効率的な方法でもよい。)

(略解2) ガウスの補題により、 ${\mbox{${\mathbb{Z}}$}}$ 上既約であることをいえばよい。 それには ${\mathbb{F}}_7={\mbox{${\mathbb{Z}}$}}/7{\mbox{${\mathbb{Z}}$}}$ で既約であることを言えば十分。 ${\mathbb{F}}_7$ では $a=0,\pm 1,\pm 2,\pm 3$ に対して、 $a^2=0,4,9=2$ であるから、 $X^2-6$ の根は ${\mathbb{F}}_7$ の中にはない。

問題 6.4   $f_2(X)=X^3-X-1$ $\mbox{${\mathbb{Q}}$}$ 上既約である。

(略解1) [ ${\mbox{${\mathbb{Z}}$}}$ 上に帰着]

ガウスの補題により、 ${\mbox{${\mathbb{Z}}$}}$ 上既約であることをいえばよい。

もし $X^3-X-1$ ${\mbox{${\mathbb{Z}}$}}$ 上可約であれば、

$\displaystyle (X^3-X-1)=a(X)\cdot b(X)
$

となる $a,b\in{\mbox{${\mathbb{Z}}$}}[X]$ で、定数でないものが存在する。 次数の関係により、$a,b$ のうち一方は1次式、もう一方は2次式であり、 さらに係数の関係により、

% latex2html id marker 2280
$\displaystyle (X^3-X-1)=(X-c)(X^2+a X+b) \qquad(\exists a,b,c\in {\mbox{${\mathbb{Z}}$}}).
$

再び係数の関係により、$c$$1$ の約数、すなわち $\{\pm 1\}$ の 元でなければならない。 $f_2(c)=0$ でなければならないが、それは不可能。

(略解2)[ ${\mbox{${\mathbb{Z}}$}}/3{\mbox{${\mathbb{Z}}$}}$ 上に帰着]

ガウスの補題により、 ${\mbox{${\mathbb{Z}}$}}$ 上既約であることをいえばよい。 そのためには、 ${\mathbb{F}}_3={\mbox{${\mathbb{Z}}$}}/3{\mbox{${\mathbb{Z}}$}}$ 上既約ならば十分である。 $f_2(X)$ ${\mathbb{F}}_3$ に根をもたないことがわかるから、 $f_2$ ${\mathbb{F}}_3$ 上既約である。(根をもたない 2次 or 3次の多項式は既約。)

問題 6.5   $f_3(X)=X^5-X-1$ $\mbox{${\mathbb{Q}}$}$ 上既約である。

(略解)[ ${\mbox{${\mathbb{Z}}$}}/5{\mbox{${\mathbb{Z}}$}}$上に帰着: $X\mapsto X+1$ に関する不変性を使う]

ガウスの補題により、 ${\mbox{${\mathbb{Z}}$}}$ 上既約であることをいえばよい。

それには ($f \mod 5$ が) ${\mathbb{F}}_5$ 上既約であることを示せば十分である。 以下 ${\mathbb{F}}_5$ で議論する。

$\displaystyle f_3(X+1)$ $\displaystyle =X^5+5 X^4+ 10 X^3 +10 X^2 + 5 X+1-(X-1)-1$    
  % latex2html id marker 2326
$\displaystyle =X^5-X-1=f_3(X)
\qquad(/{\mathbb{F}}_5)$    

であるから、

% latex2html id marker 2329
$\displaystyle f_3(X+1)
=f_3(X)
\qquad (/{\mathbb{F}}_5)$ (6.1)

であることに注意しておく。 % latex2html id marker 2331
$ f_3(0)=-1 \neq 0$ であることから、 ([*])式により、

% latex2html id marker 2333
$\displaystyle f_3(0)=f_3(1)=f_3(2)=f_3(3)=f_3(4)=-1 \neq 0 \qquad ($in $\displaystyle {\mathbb{F}}_5)
$

言い換えると、 ${\mathbb{F}}_5$ 上では $f_3$ は1次の因子をもたない。 $f_3(X)$ が仮に 2次の既約因子 $a(X)$ を持つとする。 $a(X)$ はモニックであると仮定してよい。([*])式により、 $f_3(X)$$a(X+1)$ をも既約因子に持つ。 同様にして、

$\displaystyle a(X),a(X+1),a(X+2),a(X+3),a(X+4)
$

はすべて $f_3$ の2次の既約因子であることがわかる。 素因子分解の一意性と、これらがモニックであることとにより、 これら5つの多項式のうち少なくとも2つは等しい。

% latex2html id marker 2354
$\displaystyle a(X+i_1)=a(X+i_2) \qquad(\exists i_1,i_2 \in {\mathbb{F}}_5, i_1\neq i_2)
$

このことはじつは % latex2html id marker 2356
$ a(X+i) \quad(i\in {\mathbb{F}}_5)$ がすべて等しいことを意味している。 (演習問題: ${\mathbb{F}}_5$ は加法的に $(i_2-i_1)$ で生成されることを用いる。) とくに

$\displaystyle a(X+1)=a(X).
$

このような ${\mathbb{F}}_5$ 上の $2$ 次式は存在しない。(練習問題)

(略解2) [ ${\mbox{${\mathbb{Z}}$}}/3{\mbox{${\mathbb{Z}}$}}$ 上に帰着:コンピュータを使い全数調査] ガウスの補題により、 ${\mbox{${\mathbb{Z}}$}}$ 上既約であることをいえばよい。 それには ( $f_3 \mod 3$ が) ${\mathbb{F}}_3$ 上既約であることを示せば十分である。 以下 ${\mathbb{F}}_3$ で議論する。 % latex2html id marker 2378
$ f_3(0)=-1\neq 0, f_3(1)=-1 \neq 0, f_3(-1)=-1 \neq 0$ であるから、$f_3$ ${\mathbb{F}}_3$ 上1次の因数をもたない。

$\displaystyle f_3(X)=(X^2+a X+b)(X^3+c X^2 + d X+ e)
$

がなりたつような $a,b,c,d,e \in {\mathbb{F}}_3$ を機械で総当りに求めると、 そのようなものは存在しないことがわかる。 (総当りに必要な組み合わせは $3^5$ とおり。) よって $f_3$ は既約である。

後半は次のように処理すると計算をかなり減らせる: $f_3(X)$$X^2+a X+b$ で割った余り

$\displaystyle (b^2 + a^4 -1) X -2 a b^2 + a^3 b -1
$

$a,b$ の値として ${\mathbb{F}}_3$ のどれをとっても 0 にはならない。 ($a,b$ の値の選び方は $3^2=9$ とおり。このぐらいならうまく整理しながらやれば 人間でも可能。)