理工系線形代数学 No.2要約

\fbox{今日のテーマ} 行列の演算と実数の演算。

行列の和、差、積は実数を扱うのと同様の扱いで良いのだが、

  1. サイズが合う物同士しか足したり引いたり掛けたりはできない。
  2. 積は可換ではない。すなわち、行列 $A,B$ があったとして、 $AB$$BA$ とは、(たとえ両者が存在したとしても、) 一般には等しくない。
  3. % latex2html id marker 843
$ A\neq 0, B \neq 0$ としても $AB=0$ のことがある。

◎ 特別な行列

すべての成分が 0 の行列を零行列とかゼロ行列といい、 サイズが $n,m$ のゼロ行列を $0_{n,m}$ で表す。

行と列の数が等しい行列を正方行列という。 正方行列の $A=[a_{ij}]$ で、$i=j$ であるような成分 $a_{11},\dots, a_{nn}$$A$ の対角成分という。対角成分がすべて $1$ で、残りの成分が 0 であるような 正方行列のことを、単位行列と言い、サイズが $n,n$ の単位行列を $1_n$ とか、 $E_n$ と表記する。

◎ クロネッカーのデルタ。

クロネッカーのデルタと呼ばれる記号 $\delta_{ij}$

\begin{displaymath}
% latex2html id marker 871\delta_{ij}=
\begin{cases}
1 & ...
...とき}) \\
0 & \quad (i\neq j \text{ のとき})
\end{cases}\end{displaymath}

で定める。単位行列はクロネッカーのデルタを成分にもつ行列である。

定理 2.1 (行列の演算法則)    以下のことがなりたつ。
  1. サイズが $n,m$ の行列の全体 $M_{n,m}($$\mbox{${\mathbb{R}}$}$$)$ は足し算に関して可換群をなす。 すなわち、
    1. % latex2html id marker 884
$ (A+B)+C= A+(B+C)\qquad (\forall A,B,C \in M_{n,m}($$\mbox{${\mathbb{R}}$}$$))$
    2. % latex2html id marker 888
$ A+0_{m,n}=0_{m,n}+A=A \qquad (\forall A \in M_{n,m}($$\mbox{${\mathbb{R}}$}$$))$.
    3. どんな $A \in M_n($$\mbox{${\mathbb{R}}$}$$)$ にたいしても、$-A$ と書かれる特別な行列が 存在して、 $A+(-A)=(-A)+A=0_{m,n}$ をみたす。
    4. % latex2html id marker 900
$ A+B= B+A\qquad (\forall A,B \in M_{n,m}($$\mbox{${\mathbb{R}}$}$$))$

    1. 積は結合的である。すなわち、 $A(BC)=(AB)C$ が任意の $A\in M_{k,l}($$\mbox{${\mathbb{R}}$}$$)$ $B\in M_{l,m}($$\mbox{${\mathbb{R}}$}$$)$ $C \in M_{m,n}($$\mbox{${\mathbb{R}}$}$$)$ にたいしてなりたつ。 (要するに、3つの積が定義されるときには いつでも成り立つ。)
    2. 任意の $A\in M_{m,n}($$\mbox{${\mathbb{R}}$}$$)$ にたいして、

      % latex2html id marker 922
$\displaystyle 1_m A = A, \quad A 1_n=A
$

      がなりたつ。
    1. $(A+B)C= AC + BC
$
    2. $C (A+B)= C(A + B)
$

注意 2.1  

$\displaystyle A=
\begin{bmatrix}
1 & 0 \\
0 & 0
\end{bmatrix},
B=
\begin{bmatrix}
0 & 0 \\
1 & 0
\end{bmatrix},
$

とおくと、$AB=0_2$, % latex2html id marker 937
$ BA=B (\neq 0_2)$ である。 積は一般には可換ではなく、0 でないものを2つ掛けて 0 になることもある。

http://www.math.kochi-u.ac.jp/docky/kogi にこのプリント を提供する.