用いること

次のことはよく用いる。

命題 1.1   $f(X)\in {\mbox{${\mathbb{Z}}$}}[X]$ ${\mbox{${\mathbb{Z}}$}}$ 上で可約なら、 任意の素数 $p$ に対し、 $f \mod p $ ${\mathbb{F}}_p={\mbox{${\mathbb{Z}}$}}/p{\mbox{${\mathbb{Z}}$}}$ 上可約である。

たとえば次のような ${\mbox{${\mathbb{Z}}$}}[X]$ の元の因数分解を考えよう。

$\displaystyle X^5+2 X^4+7 X^3+3 X^2 + 2 X-15 =(X^3+4 X -5)(X^2+2 X +3)
$

(先に言葉の注意をしておく。これは環論的に言えば ${\mbox{${\mathbb{Z}}$}}[X]$ での 因数分解とも言えるし、多項式の言葉で言えば ${\mbox{${\mathbb{Z}}$}}$ 上の因数分解と言っても良い。) これはそのまま素数 $p$ に依存して定義される剰余環 ${\mbox{${\mathbb{Z}}$}}/p{\mbox{${\mathbb{Z}}$}}$ での因数分解とも考えられる。整数 $k$ ${\mbox{${\mathbb{Z}}$}}/p{\mbox{${\mathbb{Z}}$}}$ でのクラスを $[k]_p$ と書くと、

$\displaystyle [1]_pX^5+[2]_p X^4+[7]_p X^3+[3]_p X^2 + [2]_p X-[15]_p =
([1]_p X^3+[4]_p X -[5]_p)([1]_pX^2+[2]_p X +[3]_p)
$

これが命題1.1 の意味である。 (実際には $p$ は素数でなくても整数であれば構わない。しかし $p$ が素数ならば ${\mbox{${\mathbb{Z}}$}}/p{\mbox{${\mathbb{Z}}$}}$ が体であるという利点があるので以下では主に $p$ が素数の場合を かんがえよう。 ${\mbox{${\mathbb{Z}}$}}/p{\mbox{${\mathbb{Z}}$}}$ は体なので ${\mathbb{F}}_p$ とも書くのであった。)

この分解についてもう少し考えてみる。 ${\mbox{${\mathbb{Z}}$}}/3{\mbox{${\mathbb{Z}}$}}$ では

$\displaystyle [1]_3X^5+[2]_3 X^4+[7]_3 X^3+[3]_3 X^2 + [2]_3 X-[15]_3 =
([1]_3 X^3+[4]_3 X -[5]_3)([1]_3X^2+[2]_3 X +[3]_3).
$

${\mbox{${\mathbb{Z}}$}}/3{\mbox{${\mathbb{Z}}$}}$ の元は $[0]_3,[1]_3,-[1]_3$ のどれかに等しいから書き換えると:

$\displaystyle [1]_3X^5-[1]_3 X^4+[1]_3 X^3- [1]_3 X =
([1]_3 X^3+[1]_3 X +[1]_3)([1]_3X^2-[1]_3 X )
$

$[1]_3$ のことは $1$ と書いてしまえば、 ${\mathbb{F}}_3={\mbox{${\mathbb{Z}}$}}/3{\mbox{${\mathbb{Z}}$}}$ 上で考えているという注釈 ( $/{\mathbb{F}}_3$ と略記することで以下では表現する) のもとで

% latex2html id marker 1612
$\displaystyle X^5- X^4+ X^3- X =
( X^3+ X +1)(X^2- X ) \qquad (/{\mathbb{F}}_3)
$

同様に、同じような注釈を書き加えておけば、

  % latex2html id marker 1613
$\displaystyle X^5+2 X^4+2 X^3+3 X^2 + 2 X =(X^3- X )(X^2+2 X +3) \qquad (/{\mathbb{F}}_5)$    
  % latex2html id marker 1614
$\displaystyle X^5+2 X^4+3 X^2 + 2 X-1 =(X^3-3 X +2)(X^2+2 X +3) \qquad (/{\mathbb{F}}_7)$    
  % latex2html id marker 1615
$\displaystyle X^5+2 X^4-4 X^3+3 X^2 + 2 X-4 =(X^3+4 X -5)(X^2+2 X +3)
\qquad (/{\mathbb{F}}_{11})$    

を得る。 もっとも、

% latex2html id marker 1617
$\displaystyle X^5+2 X^4+7 X^3+3 X^2 + 2 X-15 =(X^3+4 X -5)(X^2+2 X +3) \qquad (/{\mathbb{F}}_p)
$

と書いておけばすべての素数 $p$ についていっぺんに書くことができるわけだが。

命題1.1 の対偶をとると次の命題を得る。

命題 1.2   ある素数 $p$ について $f \mod p $ ${\mathbb{F}}_p={\mbox{${\mathbb{Z}}$}}/p{\mbox{${\mathbb{Z}}$}}$ 上既約ならば、 $f(X)\in {\mbox{${\mathbb{Z}}$}}[X]$ ${\mbox{${\mathbb{Z}}$}}$ 上で既約である。