Zorn の補題

このページは Wikipediaの Zorn の補題の項(2017/10/25閲覧)のコピペを、 若干記号等を好みに応じて変更したものである。

定理 0.1   順序集合 $\mathcal S$ があるとする。もし $\mathcal S$ の任意の鎖が $\mathcal S$ 内に上界を持つとすると、 $\mathcal S$ は極大元を持つ。

Zornの補題を使って、次のことを示せる:

補題 0.2   環 $R$ とそのイデアル $I_0$ で、 % latex2html id marker 1033
$ R \supsetneq I_0$ を満たすものがあったとする。 このとき、$I_0$ を含む $R$ の極大イデアルが存在する。 とくに、$\{0\}$ でない環 $R$ は極大イデアルを持つ。

Proof. Zorn の補題で

$\displaystyle \mathcal S=
\{$$I_0$ を含む $R$ の(両側)イデアルのうち $R$ 自身以外からなるもの$\displaystyle \}
$

を考える。 $\mathcal S$$I_0$を含むので空ではない。 $\mathcal S$ は包含関係により半順序集合である。 $R$ の極大イデアルを見つけることは $\mathcal S$ の極大元を見つけることと同じである。

Zornの補題を適用するために、 $\mathcal S$ の空でない全順序部分集合 $\mathcal \mathcal T$ をとる。 $\mathcal T$ に上界が存在することを示す必要がある。 つまり、イデアル $I\subset R$ が存在して、 それは $\mathcal T$ のどの要素より以上であり、 しかも $R$ よりは厳密に小さいことを示す必要がある。 $I$ $\mathcal T$ の全てのイデアルの和集合とする。 $\mathcal T$ は少なくともひとつ元を持ち、 それは $I_0$ を含んでいるので、和集合 $I$$I_0$ を含み、 とくに空集合ではない。 $I$ がイデアルであることを示すため、$a$$b$$I$ の元とすると、 ふたつのイデアル $J, K \in \mathcal T$ が存在し、 $a \in J$ であり、$b \in K$ ある。 $\mathcal T$ は全順序であったので、 $J \subset K$ または $K \subset J$ である。 前者の場合は、$a$$b$ もともに $K$ の元であり、 和 $a + b$$K$ の元である。 よって、$a + b$$I$ の元である。 後者の場合は、$a$$b$ もともに $J$ の元であるから、 同様に $a + b$$I$ の元である。さらに、任意の $r \in R$ に対して、 $ar $$ra$$J$ の元であるから、$I$ の元でもある。 以上により、$I$$R$ のイデアルであることが分かった。

そして、イデアルが $R$ と一致することは $1$ を含むことと同値である。 そこで、$I$$R$ に等しいと仮定すると、それは $1$ を含み、 $\mathcal T$ のある要素が $1$ を含むことになり、それは $R$ と一致する。 しかし、これは $\mathcal S$ から $R$ を除いていたことに矛盾する。

Zornの補題の条件は確認できたので、 $\mathcal S$ には極大元が存在する。 言い換えると、$R$ には極大イデアルが存在する。 % latex2html id marker 1043
$ \qedsymbol$

上のように、Zorn の補題の適用時には、 ある一つの集合の部分集合の全体あるいは一部(この場合は全体とは異なるイデアル) を使用することも多い。

Zorn の補題の証明の概略。

[
l]Zorn の補題 順序集合 $S$ があるとする。もし $S$ の任意の鎖が $S$ 内に上界を持つとすると、 $S$ は極大元を持つ。もっと強く、$S$ の任意の元 $s_0$ に対して、 % latex2html id marker 1177
$ m \geq s_0$ を満たすような $S$ の極大元 $m$ が存在する。

以下では $s_0 \in S$ を固定し、補題の後半部分を証明する。

$\displaystyle \mathcal A=\{$   $s_0$ を元として含むような $S$ の鎖$\displaystyle \}
$

とおく。 $\mathcal A$ は包含関係に関して順序集合をなす。
  1. $\mathcal A \ni \{s_0\}$ よって $\mathcal A$ は空ではない。
  2. $\mathcal A$ の任意の鎖 $\mathcal T$ は上限(=最小上界)を持つ。

さて、 $\mathcal A$ の任意の元 $T$ をとってくる。 $T$$S$ の鎖であるから、仮定により $S$ 内に上界 $a_T$ を持つ。 $a_T$$S$ の極大元ならば話は終わりであるから、 $a_T$ は極大ではないとしてよい。したがって、 ある $b_T \in S$ が存在して、$b_T$$T$ のどの元よりも大きい。 そこで、おのおのの $T \in \mathcal A$ に対してそのような $b_T$ を選び、写像 $f:\mathcal A \to \mathcal A$

$\displaystyle f(T)=T\cup \{ b_T\}
$

で定義する。

(3) $f$ $\mathcal A$ から $\mathcal A$ への増加写像である。

今の場合、 $f$ は狭義増加者像であるから、次の Bourbakiの補題に反する。

[
l]Bourbakiの補題 順序集合 $A$ があるとする。 もし
  1. $\mathcal A \ni \exists a_0$.
  2. $\mathcal A$ の任意の鎖 $\mathcal T$ は上限(=最小上界)を持つ。 (これを以下では $\sup(T)$ と書くことにする。)
  3. $\mathcal A$ から $\mathcal A$ への増加写像 $f$ が存在する
とすると、ある $x_0 \in A$ が存在して、 % latex2html id marker 1256
$ x_0 \geq a_0$ かつ $f(x_0)=x_0$ である。

Bourbaki の補題の証明の概略。

$M\subset A$$f$-認容であるというのを

  1. $f(M)\subset M$
  2. $M$ の任意の鎖 $T$ に対して、 $\sup(T)\in M$
で定義する。

$M=\langle a_0 \rangle$ を,「$a_0$ をふくむ $f$-認容な $A$ の部分集合のうち 最小のもの」として定義する。$M$$a_0$ を含む $f$-認容な $A$ の部分集合の 全体の共通部分であり、「$f,\sup$ を作用として $a_0$ で生成されたような集合」 と思っても差し支えない。 この証明の核心はつぎのことである。

[
l]証明の核心 $\langle a_0 \rangle =M$ 自身も全順序集合(つまり、鎖)である。
これがわかると、$M$ 自体が上限 $m_0$ をもち、 $M$$f$-認容性から $m_0 \in M$ である。 $f$ の増加性から $f(m_0)=m_0$ すなわち Bourbaki の補題の $x_0$ としては $m_0=\sup(\langle a_0 \rangle )$ を取れば良いことがわかるという寸法である。

では「核心」の証明はというと、以下 CM ...じゃなくて次ページ。

  1. $M\ni c$ が extreme ${\Leftrightarrow}$ % latex2html id marker 1316
$ \forall x \in M (x<c\implies f(x)\leq c $ で、「extreme な元」を定義する。
  2. extreme な元 $c$ に対して、 % latex2html id marker 1320
$ M_c=\{x \in M ;\vert x\leq c$    or % latex2html id marker 1321
$ f(c) \leq x\}$ と定義すると、$M_c$ 自身も $f$-認容なことがわかり、したがって $M=M_c$.
  3. $M_{\text{extreme}}=\{c \in M\vert \text{$c$\ は extreme}\}$ と定義すると、 これもまたもや $f$-認容であることがわかって、 $M=M_{\text{extreme}}$
  4. (3)のことから、直ちに $M$ は全順序集合であることがわかる。

という具合。詳しくは成書をご覧いただきたい。

この稿では

S. Lang Real and functional analysis third edition (GTM)

を参考にした。