本講義の目的 : 加群の理論
本講義では環上の加群の理論について述べる。 加群は「イデアル」の一般化であり、環-イデアルの理論を線形に拡張したものが 加群の理論であると見ることもできる。 体上の加群はベクトル空間と同じ意味になり、その意味で加群の理論は 線形代数学の延長と見ることもできる。
本講義では扱わないが、現代的には、可換環 上の加群はアフィンスキーム 上の層の加群として 扱われ、幾何学的な意義をもつことになる。
第一回目の主題 : 環の定義の復習。加群の定義
この講義では、単に環といえばとくに断らない限り上記のように単位元をもつ 結合的な環をさすものとする。
環 にたいし、その加法に関する単位元(零元)を , 乗法に関する 単位元を と書く。これらはそれぞれ次の条件を満たす唯一の の元である。
環 において、積が常に可換である時、 は可換環であると呼ばれる。 可換環 において、0 以外の元が必ず(乗法に関して)逆元をもつとき、 は体であると呼ぶ。
が与えられているとき、 は -(左)加群であると呼ぶ。
* 加群としての の自己準同型の全体
は環をなし、 の への作用は から への環準同型と同一視される。 そのように考えると加群の定義がどうして上のようになるべきかが納得されるだろう。