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論理と集合要約 No.1

第一回目の主題 : \fbox{命題と論理}

定義 1.1   命題とはそれが真であるか偽であるかがはっきり決まった文のことである。 (誰が見てもはっきりとどちらかに分かれていて、 しかも意見が食い違わないということが大事である。)

上の定義は多少間に合わせ的である。もっと現代的には、 使って良い単語のリストと文法を定め、その文法に則って リストのなかの単語を組み合わせたものを命題と呼ぶ。

なお、教科書などで「命題1.5....」などとして書かれている 「命題」は大抵の場合(教科書が間違ってない限りは) 真の命題である。それに対して論理学では偽の命題も対象として扱う。

例 1.2 (命題か否かの例)  
  1. "5 は 3 より大きい" は真の命題である。
  2. "3 は 5 より大きい" は偽の命題である。
  3. "3 は大きい" は命題ではない。

"5は 3より大きい" といった命題をひとつの文字(例えば、$ P$ )で表現することがある。 これを

$\displaystyle P:$   "5は3より大きい"

と表記する。$ P$ は真の命題である。 もちろん $ P:''5>3''$ と書いても良い。

例えば、微分積分学の基礎では、 いくつかの実数と、その全体の集合 $ \mbox{${\mathbb{R}}$}$ , 関係を表す " $ =,>, <, \in , \ni$ , それに演算 " $ +,-,\times, /$ "を組み合わせて基本的な命題が 作られる。

例 1.3 (基本的な命題の例)  
  1. $ P_1: 3+5=8$
  2. $ P_2: 3 \times 7<100 $
  3. $ P_3: (10+10)/2=10$
とおけば、 $ P_1,P_2,P_3$ は真の命題である。

問題 1.1   真、偽の命題の例、命題ではない文章の例を それぞれ一つづつあげなさい。

"$ x >100 $ " のように、「変数」を持つ命題について考えてみよう。 これ自体では真とも偽とも確定できない (そもそも $ x$ はなんなのかも判然としない!)ので、 上の定義の意味での命題とは言えない。しかし、 どんな実数も 100より大きい、という文 はだれでも真偽が確定できて、もちろん偽の命題である。 この命題のことを

$\displaystyle \forall x\in$   $\displaystyle \mbox{${\mathbb{R}}$}$% latex2html id marker 1104
$\displaystyle \quad (x >100)
$

もしくは

% latex2html id marker 1106
$\displaystyle x >100\quad (\forall x \in$   $\displaystyle \mbox{${\mathbb{R}}$}$$\displaystyle )
$

と書く。 同様に、ある(少なくともひとつの)実数 $ x$ に対して、$ x >100 $ である、という命題を

$\displaystyle \exists x\in$   $\displaystyle \mbox{${\mathbb{R}}$}$% latex2html id marker 1116
$\displaystyle \quad (x >100)
$

もしくは

% latex2html id marker 1118
$\displaystyle x >100\quad (\exists x \in$   $\displaystyle \mbox{${\mathbb{R}}$}$$\displaystyle )
$

と書く。これは真の命題である。 $ \forall, \exists$ と変数を組み合わせることにより、 複雑な命題を作ることができる。

$\displaystyle \forall x\in$   $\displaystyle \mbox{${\mathbb{R}}$}$% latex2html id marker 1126
$\displaystyle \quad (x^2 +1 >0)
$

は真の命題の例である。

問題 1.2  

$\displaystyle \forall x\in$   $\displaystyle \mbox{${\mathbb{R}}$}$$\displaystyle (\exists y \in$   $\displaystyle \mbox{${\mathbb{R}}$}$$\displaystyle ( x>y))
$

$\displaystyle \exists y \in$   $\displaystyle \mbox{${\mathbb{R}}$}$$\displaystyle (\forall x \in$   $\displaystyle \mbox{${\mathbb{R}}$}$$\displaystyle ( x>y))
$

はそれぞれ真の命題だろうか、偽の命題だろうか。

◎ and, or, not

命題を組み合わせて新しい命題をつくることもできる。

既存の命題から、新しい命題を生み出すための基本的な道具が、 「and, or, not」である。その説明のために、まず つぎの定義をしておく。

定義 1.4 (真理値)   命題の真理値を、つぎのように定める。
  1. 命題 $ P$ が正しい(真である)とき、その真理値は $ 1$ であると定める。
  2. 命題 $ P$ が正しくない(偽である)とき、その真理値は 0 であると定める。

定義 1.5   命題 $ P$ が与えられていて、$ P$ の真理値は $ p$ であるとする。このとき、 「not $ P$ 」 なる命題をあらたにつくっても構わない。 この命題の真理値は、$ 1-p$ である。

定義 1.6   命題 $ P,Q$ が与えられていて、$ P$ の真理値は $ p$ , $ Q$ の真理値は % latex2html id marker 1185
$ q$ であるとする。このとき、
  1. $ P$ and $ Q$ 」 なる命題をあらたにつくっても構わない。 この命題の真理値は、% latex2html id marker 1191
$ p q$ である。(すなわち、$ P$ , $ Q$ のどちらも 真の時のみ真である。)

  2. $ P$ or $ Q$ 」 なる命題をあらたにつくっても構わない。 この命題の真理値は、 % latex2html id marker 1201
$ \max(p, q)$ である。(すわなち、 $ P,Q$ の どちらか(両方でも良い)が真の時に真である。)

定義 1.7   命題 $ P,Q$ が与えられていて、$ P$ の真理値は $ p$ , $ Q$ の真理値は % latex2html id marker 1218
$ q$ であるとする。このとき、 「$ P$ $ \implies$ $ Q$ 」 (「$ P$ ならば $ Q$ 」と読む。) なる命題をあらたにつくっても構わない。 この命題の真理値は、 「(not $ P$ ) or $ Q$ 」と同じである。

「or」と「ならば」の使い方はとくに注意が必要である。 日常語としては、これらの語を上記以外の使い方で、 時と場合に応じて用いることもあるが、 それでは「俺はそういう意味では言わなかった」などの齟齬が生じるおそれがある。 そこで議論を明確にするために上のようにきめてある。

かけ算における九九の表や、筆算のように、 真理値についても表をつくって理解の 助けにすることがある。これを真理表という。 様式は、どのようなものでも良いわけだが、例えばつぎのようにつくる。

P Q P and Q P or Q not P Q (not P)or Q
0 0 0 0 1 0 1
0 1 0 1 1 1 1
1 0 0 1 0 0 0
1 1 1 1 0 1 1

数学の命題は、「基本的な命題」と, いくつかの変数、 $ \forall, \exists$ , and, or, not, $ \implies$ を組み合わせて作られている。 例えば、「$ f(x)=x^3 $$ x=5$ で連続である」 という命題は

$\displaystyle \forall \epsilon >0
(\exists \delta >0
(\forall x (\vert x-5\vert<\delta \implies \vert x^3-5^3\vert<\epsilon)))
$

と書かれる。

問題 1.3  

$\displaystyle \forall x\in$   $\displaystyle \mbox{${\mathbb{R}}$}$$\displaystyle (x >0$    or $\displaystyle x<1)
$

は真の命題だろうか、偽の命題だろうか。

問題 1.4   「$ x> 3$ ならば $ x >2$ 」 は正しいだろうか。 (論理の講義らしくもっと精密に書くなら: $ \forall x\in$   $ \mbox{${\mathbb{R}}$}$$ (x >3 \implies x>2)$ だろうか?)

$ P$ ならば $ Q$ 」は、$ P$ が成り立つときには、$ Q$ が成り立つことを 主張している。では $ P$ が成り立たないときにはどうだろうか。 日常生活では場合に応じて次の二つの意味に用いている。

  1. $ P$ でないときは関知しない。($ P$ が真でも、偽でもどちらでもよい。)
  2. $ P$ でないときは $ Q$ でない(と言外に言っている)。
曖昧さを避けるため、数学では「ならば」($ \implies$ ) を前者の意味でのみ用いる。

$ P$ または $ Q$ 」( $ P$ or $ Q$ )についても これは $ P$$ Q$ のどちらかが正しいという主張であるが、 日常生活では場合に応じて次の二つの意味に用いている。

  1. $ P$$ Q$ の両方が正しいことも許す。
  2. $ P$$ Q$ の両方が正しいのは(言外に)許さない。
曖昧さを避けるため、数学では「または」(or)を前者の意味でのみ用いる。


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2015-04-15