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線形代数学概論 A No.10要約

行列に基本行列を左右から(ごちゃ混ぜに)掛けることにより、行列を $ F_{m,n}(r)$ と書く行列 ($ (i,i)$ 成分がはじめの $ r$ 個だけ $ 1$ であとはすべて 0 .) に変形できるのでした。

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\fbox{今日のテーマ} 行列の階数(ランク)

任意の $ m,n$ 行列 $ A$ は、うまく両側基本変形すれば、 両側基本変形の標準形の行列に変形できるのでした。それを利用すると 行列のランクが定義されます。

定義 10.1   逆行列をもつような行列のことを可逆行列とか、正則行列と呼ぶ。

命題 10.1   任意の $ m,n$ 行列 $ A$ にたいして、正則行列 $ P,Q$ と 0 以上の整数 $ r$ があって、

$\displaystyle P A Q=F_{mn}(r)
$

という等式が成り立つ。

定義 10.2   $ A$ にたいして、上の命題を満たす $ r$ のことを $ A$階数とよび、 $ \operatorname{rank}(A)$ で書き表す。

命題 10.2   $ A$ の階数は、$ P,Q$ の選び方によらず、 (誰が計算しても) 一意に決まる。

証明には次の補題を用いる。

補題 10.1   $ m,n$ 行列 $ X$$ n,m$ 行列 $ Y$ とが $ XY=E_m$ を満たすとすると、% latex2html id marker 1032
$ n\geq m$ でなければならない。

(対偶を取ったほうがわかりやすいかもしれない:)

補題 10.2   $ n<m$ ならば、どんな $ m,n$ 行列 $ X$ とどんな $ n,m$ 行列 $ Y$ とに対しても、 % latex2html id marker 1049
$ XY\neq E_m$ .

命題10.2により、次のことがすぐにわかる。

命題 10.3   $ m,n$ 行列 $ A$ の階数は、正則行列を右や左からかけても変わらない。

◎階数と正則性

命題 10.4   $ n$ 次の正方行列 $ A$ について、$ A$ が正則であることと、 $ \operatorname{rank}(A)=n$ であることは同値である。

◎階数の幾何学的な意味

$ F_{2,3}(1)=
\begin{pmatrix}
1 & 0 \\
0 & 0
\end{pmatrix}$ について調べよう。 この行列は $ A_\epsilon=
\begin{pmatrix}
1 & 0 \\
0 & \epsilon
\end{pmatrix}$ $ \epsilon\to 0$ の 「極限」 と考えられる。 行列 $ A_\epsilon$ は,「縦に $ \epsilon$ 倍、横には等倍」という行列である。 の $ \epsilon\to 0$ の 「極限」 では、この写像は縦方向を完全に潰す。 つまり、 $ {\mathbb{F}}_{2,2}(r)$ は縦方向を完全に潰す写像である。(論理的には、基本ベクトルの 行き先を見たほうがよいが、結論は同じである。)

同様に、 $ F_{3,3}(2)$ は、

$\displaystyle F_{3,3}(2)
\begin{pmatrix}
x \\
y \\
z
\end{pmatrix}=
\begin{pmatrix}
x \\
y \\
0
\end{pmatrix}$

という線形写像をあたえる。この行列は $ x,y$ 方向をそのままに、$ z$ 方向を 潰すような写像である。

命題 にある分解について考えてみよう。

例 10.1  

$\displaystyle A=
\begin{pmatrix}
5 & 7\\
15 & 21
\end{pmatrix}$

について、

% latex2html id marker 1102
$\displaystyle P=
\begin{pmatrix}
1 & 2 \\
3 & 4
\end{pmatrix},
\quad Q=\begin{pmatrix}
5 & 7\\
2 & 3
\end{pmatrix}$

と置くと、 $ P,Q$ は正則行列であって、

$\displaystyle A= P F_{2,2}(1) Q
$

という分解が成り立つ。

$\displaystyle Q^{-1}=\begin{pmatrix}
3 & -7\\
-2 & 5
\end{pmatrix}$

であって、 $ A$
  1. $ Q^{-1}$ の第1列 $ \begin{pmatrix}
3 \\
-2
\end{pmatrix}$$ P$ の第1列 $ \begin{pmatrix}
1 \\
3
\end{pmatrix}$ に送る。
  2. $ Q^{-1}$ の第2列 $ \begin{pmatrix}
-7 \\
5
\end{pmatrix}$$ 0$ に潰す。
ような写像である。

例 10.2   同様に、

$\displaystyle B=
\begin{pmatrix}
1& 4 & 11\\
3 & 10 & 25
\end{pmatrix}$

について、

% latex2html id marker 1133
$\displaystyle P=
\begin{pmatrix}
1 & 2 \\
3 & 4
\...
...pmatrix},
\quad Q=\begin{pmatrix}
1 & 2 & 3 \\
0 &1& 4 \\
0&0&1
\end{pmatrix}$

と置くと、 $ P,Q$ は正則行列であって、

$\displaystyle B= P F_{2,2}(2) Q
$

という分解が成り立つ。

$\displaystyle Q^{-1}=\begin{pmatrix}
1 & -2 & 5 \\
0 & 1 & -4 \\
0 & 0 & 1
\end{pmatrix}$

であって、 $ B$
  1. $ Q^{-1}$ の第1列 $ \begin{pmatrix}
1 \\
0 \\
0
\end{pmatrix}$$ P$ の第1列 $ \begin{pmatrix}
1 \\
3
\end{pmatrix}$ に送る。
  2. $ Q^{-1}$ の第2列 $ \begin{pmatrix}
-2 \\
1\\
0
\end{pmatrix}$$ P$ の第2列 $ \begin{pmatrix}
2 \\
4
\end{pmatrix}$ に送る。
  3. $ Q^{-1}$ の第3列 $ \begin{pmatrix}
5 \\
-4\\
1
\end{pmatrix}$$ 0$ に潰す。
ような写像である。

問題 10.1  

$\displaystyle C=
\begin{pmatrix}
1 & 2 & 3 \\
4 & 5 & 6 \\
7 & 8 & 0
\end{pmatrix}F_{3,2}(2)
\begin{pmatrix}
9 & 4 \\
2 & 1
\end{pmatrix}$

と、

$\displaystyle D=
\begin{pmatrix}
1 & 2 & 3 \\
4 & 5 & 6 \\
7 & 8 & 0
\end{pmatrix}F_{3,2}(1)
\begin{pmatrix}
9 & 4 \\
2 & 1
\end{pmatrix}$

について、それぞれの分解に即して どのベクトルをどのベクトルに送る写像か上の例のように述べよ。


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2013-06-17