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線形代数学概論 A No.8要約

行列 は 普通の数のように、足したり引いたり掛けたりできるのでした。 行列をブロックに区分けすることにより、計算を簡単にすることができる 場合がありました。

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\fbox{今日のテーマ} 行列の基本変形

定義 8.1 (基本行列)  

  % latex2html id marker 918
$\displaystyle P_n(ij;c)= E_n+ c E_{ij} \qquad (i\neq j)$    
  $\displaystyle Q_n(i;c)=$   ($ E_n$$ i$ 列 を $ c$ 倍した行列)% latex2html id marker 926
$\displaystyle \qquad(c\neq 0)$    
  $\displaystyle R_n(i,j)=$   ($ E_n$$ i$ 列と $ j$ 列を入れ替えた行列)    

◎ 置換と置換行列

上の $ P_n$ は「シフト」の一般化。 $ Q_n$ は 対角行列である。 $ R_n$ については新しく出てきた。これは「置換行列」と見るのが自然である。 これを説明しよう。

定義 8.2   一般に、 $ \{1,2,\dots,n\}$ の順番を並べ替えたものを $ n$ 個の元の 置換という。 これは $ \{1,2,\dots,n\}$ からそれ自身への全単射 $ \sigma$ をあたえて、 $ (\sigma(1),\sigma(2),\dots,\sigma(n))$ という並びを 考えるというのと同じ事である。そこで、以下では置換と言えばそのような $ \sigma$ のことであると考えることにする。

定義 8.3   $ n$ 個の元の置換 $ \sigma$ にたいし、

$\displaystyle P_\sigma=
\begin{pmatrix}
\mathbf e_{\sigma(1)}
&\mathbf e_{\sigma(2)}
&\dots
&\mathbf e_{\sigma(n)}
\end{pmatrix}$

なる行列のことを $ \sigma$ に対応する置換行列と呼ぶ。

定義 8.4   $ i,j\in \{1,2,\dots,n\}$ % latex2html id marker 978
$ (i\neq j)$ に対し、$ i$$ j$ を入れ替えるような 置換のことを($ i$$ j$ の)互換 とよび、$ (i\ j)$ で書き表す。 すなわち、$ (i\ j)$ とは、次のような置換 $ \tau$ のことである。

\begin{displaymath}
\tau(k)=
\begin{cases}
j & \text{ ($k=i$ のとき)}\\
i & ...
...とき)}\\
k & \text{ (上記以外のとき。}
\end{cases}\end{displaymath}

置換行列の言葉を用いれば、$ R_n(ij)$ は互換 $ (i\ j)$ に対応する置換行列と 言うことになる。

◎右基本変形

与えられた行列 $ A$ (正方行列と限らない) にたいし、 基本行列(これは正方行列)を右からいくつかかけることにより、$ A$ と同じサイズの新しい行列を作ることができる。 この操作を右基本変形という。

右基本変形は、基本ベクトルの行き先をみることで理解することができる。

命題 8.1   $ A$$ m\times n$ 行列($ m$$ n$ 列の行列)とするとき、
  1. $ A P_n(i,j;c)$$ A$$ i$ 列の $ c$ 倍を $ A$$ j$ 列に加えた行列である。
  2. $ A Q_n(i; c) $$ A$$ j$ 列を $ c$ 倍した行列である。
  3. $ A R_n(i,j)$$ A$$ i$ 列と $ j$ 列を入れ替えた行列である。

次のことも基本的である。

命題 8.2   基本変形は可逆な操作である。 それに呼応して、基本行列は可逆な行列である。

「大抵の」正方行列 $ A$ は右基本変形を連続して行うことにより単位行列 $ E_n$ に 変形できる。つまり、基本行列 $ Y_1,Y_2,\dots, Y_s$ があって、

$\displaystyle A Y_1 Y_2 Y_3 \dots Y_s =E_n.
$

そこで $ B= Y_1 Y_2 Y_3 \dots Y_s$ とおけば、$ AB=E_n$ である。$ B$ は逆行列を持つので、 $ B$$ A$ の逆行列であることがわかる。 つまり、$ A$ にどんな右基本変形をすれば $ E_n$ になるかを詳細に記録すれば、 $ A$ の逆行列が計算できる。右基本変形をいちいち記録しておくのは面倒である。 次のようなトリックを用いるとよい。

命題 8.3   $ n$ 次正方行列 $ A$ にたいして、それを $ E_n$ の上に積み上げた行列

$\displaystyle \hat A=
\begin{pmatrix}
A \\
E_n
\end{pmatrix}$

を考える。もし、$ \hat A$ に右基本変形を繰り返して"上の部分"が $ E_n$ , すなわち

$\displaystyle \begin{pmatrix}
E_n \\
B
\end{pmatrix}$

のかたちとなったとすると、"下の部分"の $ B$ の部分が $ A$ の逆行列である。

問題 8.1   $ x,y,z$ はどの2つも相異なるような実数とする。このとき、

$\displaystyle A=\begin{pmatrix}
1 & 1 & 1 \\
x & y & z \\
x^2 & y^2 & z^2
\end{pmatrix}$

に基本変形を繰り返して $ E_3$ に変形せよ。(余力があれば、 $ A$ の逆行列をもとめよ。)

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例 8.1 ($ n=3$ の基本行列)  

  % latex2html id marker 1114
$\displaystyle P_3(1,2;c)= \begin{pmatrix}1 & c & 0...
... P_3(2,3;c)= \begin{pmatrix}1 & 0 & 0\\ 0 & 1 & c\\ 0 & 0 & 1\\ \end{pmatrix} ,$    
  他に成分が下半分にくるタイプももちろんあるが、 スペースの関係で省略する。     
  % latex2html id marker 1115
$\displaystyle Q_3(1,c)= \begin{pmatrix}c & 0 & 0 \...
...quad Q_3(3;c)= \begin{pmatrix}1 & 0 & 0\\ 0 & 1 & 0\\ 0 & 0 & c \end{pmatrix} ,$    
  % latex2html id marker 1116
$\displaystyle R_3(1,2)= \begin{pmatrix}0 & 1 & 0 \...
...quad R_3(2,3)= \begin{pmatrix}1 & 0 & 0 \\ 0 & 0 & 1 \\ 0 & 1 & 0 \end{pmatrix}$    


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2012-11-16