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代数学 IB No.8要約

\fbox{今日のテーマ}

《割り算の原理(ユークリッド環)》 これ以降、この講義では「環」と単に言えば可換環のことを 指すことにする。

$ {\mbox{${\mathbb{Z}}$}}$$ k[X]$ の二つにまず共通して言えることは、 どちらも「余りのある割り算」が出来ることである。

余りのある割り算なら出来るのが当たり前のことに思えるかも知れない。しかし、 たとえば

$ {\mbox{${\mathbb{Z}}$}}[X]$ の中で考えて $ X^2$$ 2X+1$ で割った余りは?

$ {\mathbb{C}}[X,Y]$ の中で考えて $ X^3+Y^3$$ XY+1$ で割った余りは?

などと聞かれると困ってしまう。 ポイントは、 「どこで割り算が終ったか分かるような尺度があるかどうか」 という点にある。そこで次のような定義をする。

定義 8.1   環 $ R$ユークリッド環であるとは、整列順序集合 $ W$ と 写像 $ \rho:R\to W$ (「重さ」を調べる写像)があって、 次の性質を満たすときに言う
  1. $ R$ の元 $ a$ の「重さ」 $ \rho(a)$ が最小 $ {\Leftrightarrow}$ $ a=0$
  2. $ R$ の元 $ a,b$ % latex2html id marker 1073
$ (a\neq 0)$ に対して、

    % latex2html id marker 1075
$\displaystyle b=aq+r,\quad q,r\in R, \quad \rho(r)<\rho(a)
$

    となる % latex2html id marker 1077
$ q,r$ が存在する。

(「$ W$ が整列集合である」とは、$ W$ は順序集合であって、しかも 「$ W$ の任意の部分集合 $ X$ は最小元を持つ」というときにいう。 この定義が難しく感じられる諸君には $ W=\mathbb{N}$ と思っても初級の段階には充分である。 )

補題 8.1 (ユークリッド環の基本例)   $ {\mbox{${\mathbb{Z}}$}}$ , $ k[X]$ ($ k$ は体)はともにユークリッド環である。

割り算の原理としては次のこともよく使う。

補題 8.2 (モニックな多項式による割り算)   $ R$ を単位元を持つ可換環とする。$ R[X]$ の元 $ a$ がモニックならば、 任意の $ b\in R[X]$ に対して、

% latex2html id marker 1113
$\displaystyle b=aq+r,\quad q,r\in R, \quad \deg(r)<\deg(a)
$

となる % latex2html id marker 1115
$ q,r\in R[X]$ が存在する。

定義 8.2   環 $ R$ のイデアル $ I$単項イデアルであるとは、 ある $ a\in R$ が存在して、 $ I=(a)$ が成り立つときに言う。

$ R$ の全てのイデアルが単項イデアルであるとき、 $ R$単項イデアル環であると言う。

定理 8.1   ユークリッド環は単項イデアル環である。

系 8.2   整数 $ a,b$ が与えられているとし、その最大公約数を $ d$ とおく。このとき、

$\displaystyle al+bm=d
$

をみたす整数 $ l,m$ が存在する。

系 8.3   $ k$ を体とする。$ k$ 上の多項式 $ a,b$ が与えられているとし、その最大公約数を $ d$ とおく。このとき、

$\displaystyle a(X)l(X)+b(X)m(X)=d(X)
$

をみたす$ k$ 上の多項式 $ l,m$ が存在する。

実際に $ l,m$ を計算するには、次のような方法が便利である。

例題 8.1 (ユークリッドの互除法)   等式

$\displaystyle 72l+56m=8
$

を満たす整数 $ l,m$ の組を一組求めよ。

(解答) まず次のような計算を行う

小学生の計算(★) 数式訳 行列算
72 わる 56 は 1 あまり 16 $ 72=56\times 1 +16 $ $ \begin{pmatrix}
72\\
56
\end{pmatrix}=
\begin{pmatrix}
1 & 1\\
1 & 0
\end{pmatrix}\begin{pmatrix}
56\\
16
\end{pmatrix}$
56 わる 16 は 3 あまり 8 $ 56=16\times 3 +8$ $ \begin{pmatrix}
56\\
16
\end{pmatrix}=
\begin{pmatrix}
3 & 1\\
1 & 0
\end{pmatrix}\begin{pmatrix}
16\\
8
\end{pmatrix}$
16 わる 8 は 2 あまり 0 $ 16= 8\times 2 +0$ $ \begin{pmatrix}
16\\
8
\end{pmatrix}=
\begin{pmatrix}
2 & 1\\
1 & 0
\end{pmatrix}\begin{pmatrix}
8\\
0
\end{pmatrix}$
(★小学生の計算の部分は 諸君の分かりやすいように書き加えたが、本当の答案には書かないほうが よい。)

各々の行の行列算を組み合わせると、

$\displaystyle \begin{pmatrix}
72\\
56
\end{pmatrix}=
\begin{pmatrix}
1 & 1\\
...
...egin{pmatrix}
2 & 1\\
1 & 0
\end{pmatrix}\begin{pmatrix}
8 \\
0
\end{pmatrix}$

を得る。この式の右辺に現れる正方行列はすべて $ M_2({\mbox{${\mathbb{Z}}$}})$ の元として 可逆であることに注意して、上の式を次のように変形することが出来る。

$\displaystyle \begin{pmatrix}8 \\ 0 \end{pmatrix}$ $\displaystyle = \begin{pmatrix}2 & 1\\ 1 & 0 \end{pmatrix}^{-1} \begin{pmatrix}...
...n{pmatrix}1 & 1\\ 1 & 0 \end{pmatrix}^{-1} \begin{pmatrix}72\\ 56 \end{pmatrix}$    
  $\displaystyle = \begin{pmatrix}0 & 1\\ 1 & -2 \end{pmatrix} \begin{pmatrix}0 & ...
...gin{pmatrix}-3 & 4 \\ 7 & 9 \end{pmatrix} \begin{pmatrix}72 \\ 56 \end{pmatrix}$    

この式の第一行に着目すると、 $ 8=(-3)\times 72+ 4\times 56
$ を得る。

(答え)     $ l=-3,m=4$ .

※レポート問題

つぎのうち一問を選択して解きなさい。 (期限:次の講義の終了時まで。)

(I).
$ a(X)=X^3+X+1, b(X)=X^3-2X^2+5X$ のとき、等式

$\displaystyle a(X) l(X)+b(X) m(X)=1
$

を満たす多項式 $ l,m\in {\mathbb{C}}[X]$ の組を一組見つけなさい。 今回はその見付けかたまで込めて書くこと。

(II).
% latex2html id marker 1223
$ {\mbox{${\mathbb{Z}}$}}[\sqrt{-1}]$ はユークリッド環である。 (その証明は本問題では書かなくてもよいことにする。 $ \rho$ としては《絶対値》を考え、% latex2html id marker 1227
$ q$ としては $ b/a$ にもっとも近い % latex2html id marker 1231
$ {\mbox{${\mathbb{Z}}$}}[\sqrt{-1}]$ の元をとればよい。 ( % latex2html id marker 1233
$ \vert b/a-q\vert\leq \sqrt{2}/2$ に出来る。)) このことを用いて、 % latex2html id marker 1235
$ {\mbox{${\mathbb{Z}}$}}[\sqrt{-1}]$ の元

% latex2html id marker 1237
$\displaystyle a=21-28*\sqrt{-1}, \quad b=40
$

の最大公約数をユークリッドの互除法を用いて求めなさい。

ヒント:

$ \vert a\vert^2 =1225 < 1600=\vert b\vert^2 $ であるから、まずは $ b$$ a$ で割ることになる。

% latex2html id marker 1245
$\displaystyle \frac{b}{a}=\frac{b\overline{a}}{\ve...
...vert^2}=
\frac{40(21+28\sqrt{-1})}{1225}\fallingdotseq 0.686 +0.914 \sqrt{-1}
$

であるから、商 % latex2html id marker 1247
$ q$ はこの値にもっとも近い % latex2html id marker 1249
$ {\mbox{${\mathbb{Z}}$}}[\sqrt{-1}]$ の元、すなわち % latex2html id marker 1251
$ q=1+\sqrt{-1}$ である。余りは % latex2html id marker 1253
$ r=b-q a$ で求められる。 結局、最初の除法は

% latex2html id marker 1255
$\displaystyle 40= (1+\sqrt{-1})(21-28\sqrt{-1}) + (-9+7 \sqrt{-1})
$

という具合になる。


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2011-11-24