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微分積分学概論AI要約 No.2

第2回目の主題 : \fbox{上限}

次の公理は実数の基本的な性質である。

公理 2.1   $ \mbox{${\mathbb{R}}$}$ の部分集合 $ A$ が上に有界ならば、 $ A$ は上限を持つ。

定義 2.2   $ \mbox{${\mathbb{R}}$}$ の部分集合 $ A$ に対して、その上限のことを $ \sup(A)$ と書く。

補題 2.3   集合 $ A$ の上限が $ \alpha$ であることは、次の二条件が同時に成り立つことと 同値である。
  1. % latex2html id marker 1020
$ \forall x \in A \quad( x \leq \alpha)$ .
  2. $ \forall \epsilon>0\exists x\in A (x> \alpha -\epsilon)$ .

$ \forall x .... $ 」 は、「どんな $ x$ に対しても、 $ ....$ がなりたつ」という意味、

$ \exists x .... $ 」 は、「なにかある一つの $ x$ に対しては、 $ ....$ がなりたつ」という意味で用いる。

正の整数の全体のことをこの講義では $ {\mbox{${\mathbb{Z}}$}}_{>0}$ と書く。 数列とは、数学的には次のように定義できる。

定義 2.4   実数列 $ \{a_n\}_{n=1} ^\infty$ とは、 $ {\mbox{${\mathbb{Z}}$}}_{>0}$ から $ \mbox{${\mathbb{R}}$}$ への写像 $ n\mapsto a_n$ (すなわち、正の整数 $ n$ に実数 $ a_n$ を対応させる対応)のことである。

数列 $ \{a_n\}$ を単なる集合と見てそれが有界かどうか、や その上限 $ \{a_n\}$ を議論することができる。公理 2.1により、 上に有界な数列は 上限を持つことがわかる。

定義 2.5   実数列 $ \{a_n\}$単調増加であるとは、

% latex2html id marker 1066
$\displaystyle \forall n \forall m (n \geq m \implies a_n \geq a_m)
$

がなりたつときにいう。

もっと露骨に言えば $ \{a_n\}$ が単調増加であるとは

% latex2html id marker 1070
$\displaystyle a_1 \leq a_2 \leq a_3 \leq a_4 \leq \dots
$

が成り立つということである。

補題 2.6   数列 $ \{a_n\}$

$\displaystyle a_n=\sum_{k=0}^n \frac{1}{k!}
$

で定義する。このとき
  1. $ \{a_n\}$ は単調増加である。
  2. $ \{a_n\}$ は有界である。

定義 2.7   上限

$\displaystyle \sup \left\{ \sum_{k=0}^n \frac{1}{k!}\right\}_{n=1}^\infty
$

のことを自然対数の底とよび、$ e$ と書く。

問題 2.1   正の実数 $ r$ をひとつ固定したとき、

$\displaystyle a_n=\sum_{k=0}^n \frac{1}{k!}r^k
$

で定義される数列 $ \{a_n\}_{n=1} ^\infty$ は上に有界であることを示しなさい。

参考のために、 $ \mbox{${\mathbb{R}}$}$ の性質で必要最小限のものを書いておこう。

よく知っている体 $ \mbox{${\mathbb{R}}$}$ から少し離れて、次のような集合 $ K$ (とその上の演算 $ +,\times$ ,元 $ 1_K,0_K$ ,関係式 $ >,=,<$ )を考える。

  1. $ K$ は体である。すなわち:
    1. $ (K,+)$ は加法群である。
      1. $ K$ の各元 $ x,y$ に対して、その和と呼ばれる元 $ x+y\in K$ が ただひとつ定まる。
      2. % latex2html id marker 1127
$ (x+y)+z=x+(y+z)
\qquad (\forall x, \forall y, \forall z \in K)$ .
      3. $ K$ にはゼロ元 $ 0_K$ と呼ばれる元が存在して、 任意の $ x\in K$ に対して $ x+0_K=x, 0_K+x=x$ を満たす。
      4. $ K$ の各元 $ x$ に対して、そのマイナス元 $ (-x)$ と呼ばれる元が 存在して、 $ x+(-x)=0_K, (-x)+x=0_K$ を満たす。
      5. $ x+y=y+x$ .
    2. $ (K,\times)$ は乗法に関して半群をなす。すなわち、
      1. $ K$ の各元 $ x,y$ に対して、その積と呼ばれる元 $ x y\in K$ が ただひとつ定まる。
      2. % latex2html id marker 1155
$ x(yz)=(xy)z
\qquad (\forall x, \forall y, \forall z \in K)$ .
    3. 分配法則。 % latex2html id marker 1157
$ (x+y)z=xz + yz , z(x+y)=zx + z y
\qquad (\forall x, \forall y, \forall z \in K)$ .
    4. $ K$ は乗法に関する単位元 $ 1_K$ をもつ。すなわち、 任意の $ x\in K$ に対して $ x 1_K=x, 1_K x=x$ を満たす。

    5. $ K$ の乗法は可換である。 % latex2html id marker 1169
$ x y =y x \quad(\forall x, \forall y \in K)$ .
    6. $ K$$ 0_K$ 以外の元 $ x$ は乗法に関して逆元 $ x^{-1}$ と呼ばれる元が存在して、 $ x^{-1} x =1_K, x x^{-1}=1_K$ を満たす。
  2. $ K$ は全順序集合である。
    1. $ x,y\in K$ に対して、 $ x>y $$ x=y$$ x<y$ のいずれかが成り立つ。
    2. $ x,y,z\in K$ にたいして、「($ x>y $ and $ y >z$ ) ならば $ x>z$ 」が成り立つ。
  3. $ K$ の体の構造と順序構造は両立する。
    1. $ x>y \implies x+z > y+z$ .
    2. $ x>0, y>0 \implies x y >0$ .
  4. $ K$ の任意の有界部分集合は $ K$ 内に上限を持つ。

このとき、$ K$ は実数体 $ \mbox{${\mathbb{R}}$}$ と「同じ」(順序体として同型)である。

群、加法群、体について、その詳しい性質は2年生からの代数学で深く勉強する。


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2011-04-15