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解析学 IA No.10要約

\fbox{今日のテーマ} 多変数関数の(リーマン)積分

$ \mbox{${\mathbb{R}}$}$$ ^n$ の部分集合 $ D$ 上で定義された実数値もしくはベクトル値関数 $ f$ に対して、 $ f$$ D$ 上の積分(定積分)は次のように定義される。

  1. $ D$ を小さい部分集合 $ \{D_j\}$ の和に分ける。
  2. $ f$ を 各 $ D_j$ 上で定数値関数 $ c_j$ で近似する。
  3. 積分値の一つの近似として、 $ \sum_j c_j \mu(D_j)$ を得る。 ただし $ \mu(D_j)$$ D_j$ の体積である。
  4. 細分 $ \{D_j\}$ を細かくしたとき、上のような近似が近づく値があるなら、 それを $ \int_D f$ と定義する。

問題がいくつかある。

  1. 小さい集合 $ D_j$ の体積 $ \mu(D_j)$ は如何に定義されるだろうか。 これには次元 $ n$ について帰納的に議論し、$ n-1$ 次元の積分で定義するか、 もしくは $ D_j$ として直方体のような限定的なもののみを扱う方法がある。
  2. $ D_j$ として直方体のような限定的なものを使う場合、$ D$ をそのようなもので 過不足なく覆うことが難しくなる。 これには若干の「はみ出し」もしくは「不足部分」を許して、 あとでそれらの寄与が十分小さくなることを示す方法がある。
  3. 細分を細かくするとき、はたして本当に和 $ \sum_j c_j \mu(D_j)$ は 小さくなるだろうか。これは $ f$ がどのような関数かによって変わってくる。 (コンパクト集合上の連続関数なら各 $ D_j$ 上で一様近似できるだろう。)
  4. このような積分は座標の取り方によらないだろうか? (「直方体」は 明白に座標の取り方に依存する。すなわち、直方体は座標変換すると別のモノになって しまう。)

リーマン積分はこれらの問題点に解答を与えるが、十分とは言えない。 徹底的に解決するためにはルベーグ積分をオススメする。

そうは言っても、「なんでもかんでもルベーグ積分」では成金趣味が見えかくれして イヤなので、ちょっとぐらいは扱っておこう。

定義 10.1  
  1. 区間直方体とは、

    $\displaystyle I=[a_1,b_1)\times [a_2,b_2) \times \dots [a_n,b_n)
$

    と表される $ \mbox{${\mathbb{R}}$}$$ ^n$ の部分集合のことであると決める。
  2. 上の区間直方体の測度とは、

    $\displaystyle \mu(I)=(b_1-a_1)(b_2-a_2) \dots (b_n-a_n)
$

    で定義される数のことであると定義する。
  3. 一般の $ \mbox{${\mathbb{R}}$}$$ ^n$ の部分集合 $ S$ に対して、そのジョルダン外測度とは、 「$ S$ を有限個の区間直方体 $ \{I_1,I_2,\dots, I_k\}$ で覆ったときの 直方体の総体積 $ \mu(I_1)+\mu(I_2)+\dots + \mu(I_k)$ 」の 《覆いかたに関する下限》として定義する。これを $ \mu^+(I)$ と書くことにする。
  4.    $ \mbox{${\mathbb{R}}$}$$ ^n$ の有界な集合 $ S$ に対して、 $ S$ を十分大きな区間直方体 $ I$ で覆って、 $ \mu^+(I)-\mu^+(\complement S)$ を考えると、 これは $ I$ の取り方によらずに定まる。 この値のことを $ I$ のジョルダン内測度と呼び、$ \mu^-(S)$ と書く。
  5. $ \mbox{${\mathbb{R}}$}$$ ^n$ の有界な集合 $ S$ が、 $ \mu^+(S)=\mu^-(S)$ を満たすとき、 $ S$ のことをジョルダンの意味で測度確定という。

命題 10.1   ジョルダンの外測度の定義で、$ S$ を覆う区間直方体は互いに交わらない もののみに限定しても結果はおなじである。

上の命題はジョルダン流の、「有限の区間直方体で覆う」から正しい 命題で、ルベーグ流の、「可算個で覆う」方法ではもはやなりたたない。

系 10.2  
  1. 区間直方体は測度確定であり、 $ \mu^+(I)=\mu(I)$ .
  2. 一般の有界集合 $ S\in$   $ \mbox{${\mathbb{R}}$}$$ ^n$ にたいして、 % latex2html id marker 1063
$ \mu^+(S)\geq \mu^-(S) $ がなりたつ。

上のことがあるから、 $ S$ 測度確定の場合に $ \mu^+(S)$ のことを単に $ \mu(S)$ と書いても差し支えない。

問題 10.1   平面三角形

% latex2html id marker 1076
$\displaystyle S=\{(x,y)\vert 0\leq x\leq y \leq 1\}
$

を区間長方形で覆って、 % latex2html id marker 1078
$ \mu^+(S)\geq \frac{1}{2}$ を証明しなさい。


逆写像定理の証明

補題 10.1 (縮小写像の原理)   $ K\subset$   $ \mbox{${\mathbb{R}}$}$$ ^n$ 上定義された $ \mbox{${\mathbb{R}}$}$$ ^n$ -値関数 $ f$縮小写像である、すなわち
  1. $ f(K)\subset K$
  2. % latex2html id marker 1096
$ d(f(x), f(y))\leq \frac{1}{2} d(x,y)$
を満たすとする。このとき、
(1).
$ f$ は唯一つの不動点 $ x_0\in K$ を持つ。(すなわち、 $ f(x_0)=x_0$ ).
(2).
任意の $ a\in K$ に対して、点列 $ \{a_n\}_{n=0}^\infty$

% latex2html id marker 1108
$\displaystyle a_0=a, \quad a_{n+1}=f(a_n) \quad (n=0,1,2\dots)
$

で定義すると、$ a_n$$ f$ の不動点 $ x_0$ に収束する。
(3).
$ K$ が有界で、 $ K\subset B_r(0)$ とする。 このとき、上記 $ \{a_n\}$ に対して、 $ b_n=a_{n+1}-a_{n}$ と定義すれば、 % latex2html id marker 1124
$ b_n \leq \frac{1}{2^n}\vert 2r\vert $ で、かつ、 $ x=a_0+\sum_{j=1}^\infty b_j $ がなりたつ。

定理9.1 の記号でつぎのような計算を行うと、 $ y\in B_1$ を止めるごとに、 $ f(y,\bullet)$ が縮小写像であること (したがって補題9.3が正しいこと)が言える。 $ f(B_0)\subset B_0$ も証明すべきだが、それは「練習問題」として 残しておこう。(レポート問題ではない。))

  $\displaystyle \vert\vert\varphi(y,x_1)-\varphi(y,x_2)\vert\vert$    
$\displaystyle =$ $\displaystyle \vert\vert x_1-x_2+L\int_0^1 f'(x_1+t(x_2-x_1))dt \cdot (x_2-x_1)\vert\vert$    
$\displaystyle =$ % latex2html id marker 1137
$\displaystyle \vert\vert\int^1_0(-I+Lf'((x_1+t(x_2-x_1)) dt \cdot (x_2-x_1)\vert\vert \leq \frac{1}{2} \vert\vert x_2-x_1\vert\vert$    

上の補題の主張(3)により、補題9.3 の「各点収束」は実は「一様収束」と 言っても正しいことが分かる。連続関数の一様極限は連続であるから、 $ g$ は連続関数である。 $ g$ の定義により、 $ f\circ g={\operatorname{id}}$ であることは容易に分かる。あとは 研究に任せよう。
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2009-06-26