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微分積分学概論AI要約 No.7

\fbox{コーシー列}

コーシー列は数を構成したり、未知の数を探り出すときに 大変有効である。それは「収束先の値に言及せずに収束を判定する」 ことができるからである。

数列 $ \{a_n\}_{n=1}^\infty$ が実数値 $ c$ に収束するとは、

$\displaystyle \forall \epsilon>0 \exists N\in {\mbox{${\mathbb{Z}}$}}_{>0} (n>N\implies \vert a_n -c\vert<\epsilon)
$

が成り立つときにいうのであった。カッコ内の $ \implies$ は、 ...をみたすならいつでもという意味であって、そこも キチンと表記すれば

$\displaystyle \forall \epsilon>0 \exists N\in {\mbox{${\mathbb{Z}}$}}_{>0} \und...
...l n \in {\mbox{${\mathbb{Z}}$}}_{>0}}
(n>N\implies \vert a_n -c\vert<\epsilon)
$

となる。いずれにせよ、この定義をそのまま用いる限り、 収束先 $ c$ を知らねば収束性を判定できない。 「有界な単調列は収束する」という定理や、前回の諸定理は それを補うものである。コーシー列もまたそのような役割を担う。

定義 7.1   数列 $ \{a_n\}$ がコーシー列であるとは、

% latex2html id marker 910
$\displaystyle \forall \epsilon>0 \exists N \in {\mbox{${\mathbb{Z}}$}}_{>0}
\forall n,m \geq N \quad \vert a_n-a_m\vert<\epsilon
$

がなりたつときに言う。

補題 7.2   実数の収束列はコーシー列である。

定理 7.3 (``定理1.8'')   コーシー列は収束列である。

文章、とくに $ \forall, \exists$ を含む文章について、 その「否定」を言う必要が往々にして生じる。 ジックリ考えれば分かる場合が多いが、それでは不十分で、 反射神経的に分かるようになったほうがよい。慣れてしまえば 簡単で、次の規則を機械的に適用すれば良い。

  1. $ \forall x$ にたいして ... がなりたつ」 の否定は 「 $ \exists x$ にたいして、 ... がなりたたない」 である。
  2. $ \exists x$ にたいして、 ... がなりたつ」 の否定は 「 $ \forall x$ にたいして、.... がなりたたない」 である。
  3. 「A ならば B である」の否定は、「A なのに、Bでない」である。
もっと短く記号で書くと、

  $\displaystyle \neg(\exists x P(x)) =\exists x (\neg P (x))$    
  $\displaystyle \neg(\forall x P(x)) =\forall x (\neg P (x))$    
  $\displaystyle \neg(A \implies B) = (A$    and $\displaystyle \neg B)$    

問題 7.1   $ \{a_j\}_{j=1}^\infty$ がコーシー列で、しかも0 に収束しないとき、
  1. ある正の数 $ r$ とある正の整数 $ N_1$ が存在して、

    % latex2html id marker 948
$\displaystyle n>N_1 \implies \vert a_n\vert \geq r
$

    が成り立つことを示しなさい。

    (ヒント:

    % latex2html id marker 950
$\displaystyle \exists r>0 \exists N_1 \in {\mbox{${...
...{>0} \forall n\in {\mbox{${\mathbb{Z}}$}}(n>N_1 \implies \vert a_n\vert\geq r)
$

    の否定は

    $\displaystyle \forall r>0 \forall N_1 \in {\mbox{${\mathbb{Z}}$}}_{>0} \exists n\in {\mbox{${\mathbb{Z}}$}}( n> N_1
\text{ and } \vert a_n\vert< r)
$

    である。)

  2. コーシー列 $ \{ b_j\}$ で、 $ \{a_j b_j\} $$ 1$ に収束するものがあることを証明しなさい。

オマケ:数の構成の概略

昔は、数は「単にそこにある」ものであって、 その性質を調べようと言う態度であったが、 それでは「パンがなければ、ケーキを食べれば良いのに」 という発言と同じレベルになってしまう。 現代では、数は「作らないと食べられない(使えない)」ものである。 コーシーの誕生の年がフランス革命の起きた年と同じ1789年なのは 象徴的である。

(Step 1). まず自然数を構成せねばならない。そして自然数について 加法、乗法が存在して、加法の可換法則、結合法則等が成り立つことを 数学的帰納法で示す。ポアンカレ著「科学と方法」(岩波文庫)を みればその概略を知ることができる。

自然数全体の集合を $ \mathbb{N}$ と書こう。

(Step 2). 「負の数」とその計算規則を導入して、整数を構成する。 例えば、次のようなことをする。

  1. 形式的に、 $ a-b$ ( $ a,b\in \mathbb{N})$ の形で書ける数を整数と呼ぶ。
  2. $ a-b$$ c-d$ が同じ整数を表すのは、$ a+d=b+c$ が成り立つときで、 その時に限る。
そのあと、 整数の和、差、積、および大小関係を定義し、それらが互いに 「うまくいく」(無矛盾である)ことを示す。 手間ではあるが、そんなに難しいことではない。

(このようなことは近年(と言っても半世紀ぐらい前) Grothendieck 構成法として 一般化された。)

整数の全体の集合を $ {\mbox{${\mathbb{Z}}$}}$ と書く。

(Step 3). 有理数を構成する。

  1. 形式的に、 $ a/b$ ( % latex2html id marker 976
$ a,b\in {\mbox{${\mathbb{Z}}$}}, b\neq 0)$ の形で書ける数を有理数と呼ぶ。
  2. $ a/b$$ c/d$ が同じ整数を表すのは、$ ad=bc$ が成り立つときで、 その時に限る。
有理数に対してもまたもや和、差、積および大小関係を定義できて、 それらは高校までに習ったような諸関係を満たすことがわかる。

この部分は「環の商環」だとか「局所化」として一般化される。 その一部分は代数学で習うことになる。

(Step 4). 実数を構成する。

  1. 有理数のコーシー列 $ \{a_n\}$ の全体を $ \mathfrak{R}$ とかこう。
  2. 二つの $ \mathfrak{R}$ の元 $ \{a_n\}$$ \{b_n\}$ は、 数列 $ \{a_n-b_n\}$ が 0 に収束するとき「同じクラスに属する」と呼ぶ。
  3. $ \mathfrak{R}$ を上のようなクラスわけで分けたときの各クラスを実数 と呼び、実数の全体を、 $ \mbox{${\mathbb{R}}$}$ と書く。

数列 $ \{a_n\}$ がコーシー列かどうか、や 0 に収束するかどうか、 は有理数の世界でも判定できることに注意しよう。

このステップは「任意の距離空間について、その完備化が存在する」 という定理(完備化定理)として一般化される。

以上のようにして構成した実数の全体 $ \mbox{${\mathbb{R}}$}$ が、解析学の場として充分強固であること、 すなわち「上に有界な実数の集合は必ず上限を持つ」や 「任意の実数のコーシー列はある実数に収束する」 などの事実を示すことができ、それが現代的な解析学の 出発点ということになる。


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2009-05-29