コーシー列は数を構成したり、未知の数を探り出すときに 大変有効である。それは「収束先の値に言及せずに収束を判定する」 ことができるからである。
数列 が実数値 に収束するとは、
が成り立つときにいうのであった。カッコ内の は、 ...をみたすならいつでもという意味であって、そこも キチンと表記すれば
となる。いずれにせよ、この定義をそのまま用いる限り、 収束先 を知らねば収束性を判定できない。 「有界な単調列は収束する」という定理や、前回の諸定理は それを補うものである。コーシー列もまたそのような役割を担う。
がなりたつときに言う。
文章、とくに を含む文章について、 その「否定」を言う必要が往々にして生じる。 ジックリ考えれば分かる場合が多いが、それでは不十分で、 反射神経的に分かるようになったほうがよい。慣れてしまえば 簡単で、次の規則を機械的に適用すれば良い。
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が成り立つことを示しなさい。
(ヒント:
の否定は
である。)
オマケ:数の構成の概略
昔は、数は「単にそこにある」ものであって、 その性質を調べようと言う態度であったが、 それでは「パンがなければ、ケーキを食べれば良いのに」 という発言と同じレベルになってしまう。 現代では、数は「作らないと食べられない(使えない)」ものである。 コーシーの誕生の年がフランス革命の起きた年と同じ1789年なのは 象徴的である。
(Step 1). まず自然数を構成せねばならない。そして自然数について 加法、乗法が存在して、加法の可換法則、結合法則等が成り立つことを 数学的帰納法で示す。ポアンカレ著「科学と方法」(岩波文庫)を みればその概略を知ることができる。
自然数全体の集合を と書こう。
(Step 2). 「負の数」とその計算規則を導入して、整数を構成する。 例えば、次のようなことをする。
(このようなことは近年(と言っても半世紀ぐらい前) Grothendieck 構成法として 一般化された。)
整数の全体の集合を と書く。
(Step 3). 有理数を構成する。
この部分は「環の商環」だとか「局所化」として一般化される。 その一部分は代数学で習うことになる。
(Step 4). 実数を構成する。
数列 がコーシー列かどうか、や 0 に収束するかどうか、 は有理数の世界でも判定できることに注意しよう。
このステップは「任意の距離空間について、その完備化が存在する」 という定理(完備化定理)として一般化される。
以上のようにして構成した実数の全体 が、解析学の場として充分強固であること、 すなわち「上に有界な実数の集合は必ず上限を持つ」や 「任意の実数のコーシー列はある実数に収束する」 などの事実を示すことができ、それが現代的な解析学の 出発点ということになる。