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複素数と論理(学問基礎数学コース演習) No.4

\fbox{一般論, $\forall $\ と $\exists$}

前回までに、

任意の複素数複素数 $ z ,w$ にたいして、 $ \overline{z w }=\overline{z } \cdot \overline{w} $ がなりたつ

ということを証明した。

これは、

  % latex2html id marker 941
$\displaystyle \overline{(1+\sqrt{-1})\cdot (2+4\sqrt{-1})} =\overline{1+\sqrt{-1}} \cdot \overline{2+4\sqrt{-1}}$    
  % latex2html id marker 942
$\displaystyle \overline{(2+3\sqrt{-1})\cdot (1+\pi\sqrt{-1})} =\overline{2+3\sqrt{-1}} \cdot \overline{1+\pi\sqrt{-1}}$    
  % latex2html id marker 943
$\displaystyle \overline{(\sqrt{2}+\sqrt{-1})\cdot (5+\sqrt{-1})} =\overline{\sqrt{2}+\sqrt{-1}} \cdot \overline{5+\sqrt{-1}}$    
  $\displaystyle \dots$    

を全てまとめて証明したことと同じである。このように、 文字を用いていろいろな場合を ひっくるめて証明してしまうと効率的に議論を運ぶことができる。 「任意の複素数 $ z ,w$ に対して」ということを式で表現するためには $ \forall $ という記号をもちいて、

% latex2html id marker 950
$\displaystyle \forall z \in {\mathbb{C}}\forall w \in {\mathbb{C}}\quad
( \overline{z w }=\overline{z } \cdot \overline{w})
$

とか、

% latex2html id marker 952
$\displaystyle \overline{z w }=\overline{z } \cdot \overline{w} \quad (\forall z \in {\mathbb{C}}\forall w \in {\mathbb{C}})$ (☆)

と書く。

これが正しいということは、「水の洩れるような穴がない」すなわち、

% latex2html id marker 954
$\displaystyle \overline{z w }\neq \overline{z } \cdot \overline{w} \quad (\exists z \in {\mathbb{C}}\exists w \in {\mathbb{C}})$ (★)

のようなことが起こらない、ということである。 (★) と (☆) は、互いに一方の否定である。相手が間違っている ということを示すには相手の主張の否定を証明することになる。

$ \forall $$ \exists$ の順番(変数の登場順序)にも注意しよう。

% latex2html id marker 960
$\displaystyle \forall z \in {\mathbb{C}}\setminus \{0\} \exists w\in {\mathbb{C}}\quad (z w=1)
$

は正しい命題であるが、

% latex2html id marker 962
$\displaystyle \exists w \in {\mathbb{C}}\forall z \in {\mathbb{C}}\setminus \{0\} \quad ( z w=1)
$

はまったく正しくない命題である。

$ \forall $$ \exists$ を含むような命題の否定命題を作るのは たいへん簡単な規則があることにも注意しよう。

たとえば、$ S$ は数の集合であるとして、

% latex2html id marker 970
$\displaystyle \forall x \in S \exists y \in S \quad (2 y =x)$ (AS)

の否定は

% latex2html id marker 972
$\displaystyle \exists x \in S \forall y \in S \quad (2 y \neq x)$ (BS)

であることを、確かめて頂きたい。

例題 4.1   $ S={\mbox{${\mathbb{Z}}$}}$ のときと $ S=$$ \mbox{${\mathbb{R}}$}$ のときのそれぞれに対して、(AS) と (BS) のどちらが正しいか、考えてみなさい。

定義 4.1   0 でない複素数 $ z$ と、実軸の正の部分のなす角を $ z$偏角といい、 $ \arg(z)$ で書き表す。

偏角は一意には定まらない、ということに注意しよう。$ \theta$$ z$ の 偏角なら、 $ \theta + 2 \pi $ もそうである。 すなわち、$ z$ の偏角の全体は

$\displaystyle \theta+ 2\pi {\mbox{${\mathbb{Z}}$}}
$

という集合をなすことが分かる。 そこで、偏角は % latex2html id marker 1006
$ 0\leq \arg(z) < 2 \pi$ の範囲で選ぶ (もしくは % latex2html id marker 1008
$ -\pi\leq \arg(z) < \pi$ の範囲で選ぶ) ということが良く行われるが、これはいつもそうしなければならない というわけではない。

定理 4.1   複素数 $ z$ , $ w$ に対して、
  1. $ \vert zw\vert=\vert z\vert \cdot \vert w\vert$
  2. $ z ,w$ がどちらも 0 でないとき、 $ \arg(zw)=\arg(z)+\arg(w)$
  3. $ z ,w$ がどちらも 0 でないとき、 $ \arg(z/w)=\arg(z)-\arg(w)$
が成り立つ。

補題 4.1   偏角が $ \theta$ であるような複素数 $ z$

% latex2html id marker 1040
$\displaystyle z=\vert z\vert\left(\cos(\theta)+\sin(\theta) \sqrt{-1} \right )
$

と書ける。(これを $ z$極表示 という。)

とくに、

定理 4.2   任意の正の整数 $ n$ にたいして、

$\displaystyle z^n=1
$

をみたす複素数がちょうど $ n$ 個あって、それらは

% latex2html id marker 1055
$\displaystyle \cos(\frac{2 \pi k}{n})
+\sqrt{-1}\sin(\frac{2 \pi k}{n})
\qquad (k=0,1,2,\dots,n-1)
$

である。これらは $ 1$$ n$ 乗根と呼ばれる。

問題 4.1   複素数平面 $ {\mathbb{C}}$ 上にあなたの好きな一点 $ z$ (ただし、0 や $ 1$ とは異なるもの)を とり、 0 , $ z$ , $ -\omega z$ をプロットして線分で結んでみなさい。 どんな図形ができるでしょうか。

ただし、

% latex2html id marker 1078
$\displaystyle \omega
=\frac{-1+\sqrt{-3}}{2}
\left(
=(-\frac{1}{2})+(\frac{\sqrt{3}}{2})\sqrt{-1}
\right)
$

とします。


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2009-01-27