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複素数と論理(学問基礎数学コース演習) No.2

\fbox{例を挙げること}

例には次のような効用がある。

例を挙げるときには、次のことに注意すると良い。

例題 2.1   円周率 $ \pi$ を十進小数で表現したときに、"99" が現れることがあるだろうか。

$\displaystyle \pi=3.$ $\displaystyle 1415926535897932384626433832795028841971$    
  $\displaystyle 6939937 \dots$    

なので、小数点以下第44位,第45位がちょうど99である。

このように相手にも分かるように、できるだけ具体的に 指摘したほうがよい。

$ 3$ より大きな実数は存在する。

という命題は正しいが、これは $ 3$ より大きな実数の存在(たとえば、$ 5$ ) を頭で思い浮かべているからそう思うのであって、 その 頭の中の考えを取り出して

$ 5$ は実数であって、 $ 3$ より大きい

と言ったほうがよい。

前回の問題(2) でも 式だけ計算して、つまり、

% latex2html id marker 948
$\displaystyle \begin{pmatrix}
a & b \\
c & d
\end{...
...=
\begin{pmatrix}
p a + q c & p b + q d \\
r a + s c & r b + s d
\end{pmatrix}$

の計算だけして、両者が等しくないと即断すべきではない。 実際の両者が異るような実数 % latex2html id marker 950
$ a,b,c,d,p,q,r,s$ の例が存在することを 示すべきである。さもなければ

命題 2.1   異る実係数多変数多項式 % latex2html id marker 957
$ f(x_1,\dots,x_n),\quad g(x_1,\dots,x_n)$ にたいし、 % latex2html id marker 959
$ f(a_1,\dots,a_n)\neq g(a_1,\dots, a_n)$ なる実数 $ a_1,a_2,\dots,a_n$ が存在する。

という命題を証明することになるが、これはそれなりに難しい。 実数体の代わりに、有限体の場合には命題 2.1は 実はウソなのだ。)

問題 2.1  
  1. 複素数 $ z,w$ が、$ zw=0$ をみたしているとする。このとき、$ z=0$$ w=0$ のどちらかが成り立つことを示しなさい。
  2. 2次正方行列 $ A,B\in M_2($$ \mbox{${\mathbb{R}}$}$$ )$$ AB=0$ をみたしているとする。このとき、 $ A=0$$ B=0$ のどちらかが成り立つと必ず言えるだろうか?

複素数についてもう少し関連する定義を書いておこう。 複素数 $ z$ は、 $ z=a+b J$ ($ a,b$ は実数)と一意に書けたのであった。 $ J$$ J^2=-1$ を満たす「数」である。これのことを $ i$ とか、 $ J$ とか呼び続けてもよいのであるが、ここでは記号の節約のために 以降は % latex2html id marker 1000
$ \sqrt{-1}$ と書こう。 % latex2html id marker 1002
$ \sqrt{-1}$ はしばしば虚数単位と呼ばれる。

定義 2.1   複素数 $ z$ について、 % latex2html id marker 1011
$ z=a+b \sqrt{-1}$ ($ a,b$ は実数)と書いたとき、
  1. $ a$ のことを $ z$実部といい、$ \Re{z}$ と書く。
  2. $ b$ のことを $ z$虚部といい、$ \Im{z}$ と書く。
  3. % latex2html id marker 1027
$ a-b \sqrt{-1}$ のことを $ z$複素共役といい、 $ \overline{z}$ と書く。

複素数は実部と虚部で与えてもいいのだが、それでは値打ちが少ない。 代わりに複素共役を使うことを考えよう。

補題 2.1   $ z$ の実部と虚部は $ z$ $ \overline{z}$ を用いて

% latex2html id marker 1044
$\displaystyle \Re{z}=\frac{z+\overline{z}}{2},\quad
\Im{z}=\frac{z-\overline{z}}{2 \sqrt{-1}}
$

と書ける。

複素数の定義も思い出してみよう。

補題 2.2  

$\displaystyle z=
\begin{bmatrix}
a & -b \\
b & a
\end{bmatrix}$

に対して、その複素共役は

$\displaystyle \begin{bmatrix}
a & b \\
-b & a
\end{bmatrix}=
\left(
\begin{bmatrix}
a & b \\
-b & a
\end{bmatrix}\text{ の転置行列}
\right)
$

である。

転置行列に関する一般論により、つぎのことが成り立つことがわかる。

命題 2.2   任意の複素数 $ z,w$ に対して、次のことが成り立つ。
  1. $ \overline{z+w}=\overline{z}+\overline{w} $
  2. $ \overline{z-w}=\overline{z}-\overline{w} $
  3. $ \overline{z w}=\overline{w} \overline{z} $

さらに、

命題 2.3   複素数 $ z$ に対して、 $ z \overline{z}$ は実数であり、 さらに % latex2html id marker 1077
$ z=a+b\sqrt{-1}$ $ (a,b\in$   $ \mbox{${\mathbb{R}}$}$$ )$ と書くと、

% latex2html id marker 1083
$\displaystyle z\overline{z}=a^2+b^2 (\geq 0)
$

であることが分かる。

定義 2.2   複素数 $ z$ に対して、 $ z \overline{z}$ の非負の平方根 % latex2html id marker 1094
$ \sqrt{z\overline{z}}$$ z$絶対値と呼び、$ \vert z\vert$ で書く。

$\displaystyle \vert z\vert^2=\operatorname{det}
\left(
\begin{bmatrix}
a & -b \\
b & a
\end{bmatrix}\right)
$

にも注意しよう。


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2009-01-13