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代数学II 要約 No.8

今日のテーマ:

\fbox{準同型、同型、有限体は元の数で完全に決まること}

前回、次の系の証明(と言う程難しくはなく、むしろ説明)が残ってしまっていた。

系 8.1   素数 $ p$ と正の整数 $ n$ に対して、 $ {\mathbb{F}}_p$ 上の既約多項式 $ f(X)$で、 その次数が $ n$ のものが存在する。

これをもう少し詳しく言うと、次のことが成り立つ。

定理 8.1   素数 $ p$ と正の整数 $ n$ に対して、 元の個数が % latex2html id marker 930
$ q=p^n$ であるような有限体 $ K$ が存在する(定理6.2)。 この $ K$ にたいして、次のことが成り立つ。
  1. $ K^\times$ の(群としての)生成元 $ a$ $ {\mathbb{F}}_p$ 上の最小多項式の 次数は $ n$ である。
  2. $ {\mathbb{F}}_p$ 上の $ n$ 次の既約多項式は必ず $ K$ で一次式の積に分解される。

このことを示すために、最小多項式、環の準同型等の復習をしておこう。

定義 8.1 (環の準同型の定義)   環の間の写像 $ \phi:R\to S$ が準同型であるとは、 次の条件が成り立つときにいう。
  1. $ \phi(x+y)=\phi (x)+\phi(y)$ が任意の $ x,y$ についてなりたつ。
  2. $ \phi(xy)=\phi(x)\phi(y)$ が任意の $ x,y$ についてなりたつ。
  3. $ \phi(1_R)=\phi(1_S)$ がなりたつ

単射準同形写像のことを中への同型、全単射準同形写像のことを 上への同型または単に同型とよぶ。

定理 8.2 (環の準同型定理)   環 $ R$ から環 $ S$ への準同型 $ \phi$ に対して、
  1. $ \phi$ の核 $ \operatorname{Ker}(\phi)$$ R$ のイデアルである。
  2. $ \phi$ の像 $ \operatorname{Image}(\phi)$$ S$ の部分環である
  3. $ \phi$ $ R/\operatorname{Ker}(\phi)$ $ \operatorname{Image}(\phi)$ との間の 同型を誘導する。

補題 8.1   体 $ k$ の拡大体 $ K$$ k$ 上一つの元 $ \alpha$ で 生成されているとする。このとき、
  1. $ \varphi:k[X]\to K$ $ \varphi(p(X))=p(\alpha)$ できめると、 $ \varphi$ は全射環準同型である。
  2. $ \varphi$ の核は(i) $ \{0\}$ であるか、または (ii)ある多項式 $ m(X)\in k[X]$ があって、 $ m(X)k[X]$ の形をしている。
  3. 上で、(ii)の時には、$ m(X)$ $ f(\alpha)=0$ を満たす $ k$ 上の 多項式のうち、次数が最小のものである。
  4. 上で、(i)の場合には $ [K:k]=\infty$, (ii)の場合には $ [K:k]=\deg(m)$ である。

定義 8.2   上の (ii)の場合に、$ m(X)$ のことを $ \alpha$$ k$ 上の最小多項式 とよぶ。(最小多項式は定数倍の違いの分だけ不定性があるが、 とくに断らない限りはモニック(最高次の係数が $ 1$)のものを採用して、 その不定性を取り除くことにする。)

命題 8.3   体 $ k$ の拡大体 $ K,L$ があって、$ K$ のほうは $ k$ 上一つの元 $ \alpha$ で生成される $ k$ の有限次拡大体であるとする。 さらに、$ \alpha$$ k$ 上の最小多項式を $ m$ とおく。 このとき、もし、$ L$ の元 $ \beta$ で、 $ m(\beta)=0$ を満たすものがあれば、 $ K$ から $ L$ への中への同型写像 $ \varphi$ で、 $ \varphi(\alpha)=\beta$ をみたすものが存在する。

定理 8.4   体 $ K_1$, $ K_2$ の元の数がともに有限で、同じ % latex2html id marker 1068
$ q$ であるなら、 $ K_1$$ K_2$ とは同型である(すなわち、$ K_1$ から $ K_2$ への上への 同型写像 $ \varphi$ が存在する。

定義 8.3   元の数が % latex2html id marker 1081
$ q$ の体 (上の定理により同型を除いて一つしかない) のことを % latex2html id marker 1083
$ {\mathbb{F}}_q$ とかく。

$ K^\times$ の構造を知ると、次のような問題も片付けられる。 (とは言ってもこれは Fermat の定理(あるいは群論の Lagrange の定理) の範疇である。)

問題 2.3 一般に、素数 $ p$ に対して、 10進法で書いた整数を $ p$ で割っ た余りを「一定の桁数毎に区切って」 求める方法はいつでも存在するだろう か? (但しもちろん $ p= 2$$ p=5$ の場合は例外とする。)

時間が余ったら、次の問題も解説する予定。

問題 4.2 $ K={\Bbb F}_{37}[X]/(X^3-X+2){\Bbb F}_{37}[X]$ での $ X$ のクラスを $ \xi$ と書くとき、 $ K$ での $ 12 \xi^2+5\xi+1$ の逆元を求 めなさい。 (なお、この $ K$ は実は体であるのだが、そこまでは示さなくて もよい。)

(なお、問題 4.1 では、 このとき、 $ a+b,a-b,ab, b^{-1}$ をそれぞれ $ \xi$2次式 であらわしなさい。となっていましたが、これは2次以下の式の つもりでした。(ウエブ版では訂正済)失礼を致しました。お詫びして訂正いたします。)

問題 8.1   次のような(1)-(3)の例を((4)が解きやすいように)作り,(4)を 求めなさい。
  1. 素数 $ p>2$
  2. 正の整数 $ n>2$
  3. $ {\mathbb{F}}_p$ 上の相異なる $ n$ 次既約多項式 $ f,g\in {\mathbb{F}}_p[X]$
  4. $ {\mathbb{F}}_p[X]/f(X){\mathbb{F}}_p[X]$ での $ g$ の一次式への分解

問題 8.2   任意の有限体 $ K$ に対して、$ K$ 上の $ n$ 次の既約多項式が 存在することを示しなさい。


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2002年6月5日