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代数学特論 I 要約 No.10

今日のテーマ:

\fbox{PID 上の行列のスミス標準型}

(記法)

可換環 $R$ について、次のような記号を用いる。

\begin{displaymath}M_{m,n}(R)=\text{($R$ の元を成分に持つ $m\times n$-行列)}
\end{displaymath}


\begin{displaymath}M_n(R)=M_{n,n}(R) \quad \text{(正方行列全体: 既出)}
\end{displaymath}


\begin{displaymath}GL_n(R)=M_n(R)^\times
\end{displaymath}

定理 10.1   $R$ はPIDで、 $M_{m,n}(R)$ の元 $A$ が与えられているとする。 このとき、 $P\in {\operatorname{GL}}_{m}(R)$ $ Q\in {\operatorname{GL}}_{n}(R)$ とをうまく与えれば、 PAQ は次のような形にできる。

\begin{displaymath}PAQ=
\left(
\begin{array}{c c c c c \vert c c c }
e_1 & & & &...
...r1.7ex\hbox{\huge0}}}\\
& & & & & & & \\
\end{array}\right)
\end{displaymath}

( ただし, $e_1,\dots , e_k$$R$ の元で、 $e_1 \vert e_2 \vert e_3 \vert\dots\vert e_k$ がなりたつ。)

この定理の証明は本質的には $2\times 2$ 行列の話だけで理解できる。

例えば $M_{2,2}({\mbox{${\Bbb Z}$ }})=M_2({\mbox{${\Bbb Z}$ }})$ の元

\begin{displaymath}A=\begin{pmatrix}
30 & 42 \\
55 & 33
\end{pmatrix}\end{displaymath}

で定義する。まず $30$$42$ (第1行)とでユークリッドの互除法(gcd は6)を行い、

\begin{displaymath}3\cdot 30-2\cdot 42=6
,\qquad
3\cdot (30/6)-2\cdot (42/6)=1
\end{displaymath}

という式を得る(この式にあたるものは一般のPID $R$ ではイデアルの議論から得る。) 二番目の式から

\begin{displaymath}\begin{pmatrix}
3 & 7\\
-2 & -5
\end{pmatrix}\end{displaymath}

${\operatorname{GL}}_2({\mbox{${\Bbb Z}$ }})$ の元であることがわかる。


\begin{displaymath}A
\begin{pmatrix}
3 & 7 \\
-2 & -5
\end{pmatrix}=
\begin{pmatrix}
6 & 0\\
99 & 220
\end{pmatrix}\end{displaymath}

今度は、$6$$99$ (第1列)とで同様なことを行う。

\begin{displaymath}\begin{pmatrix}
17 & -1 \\
33 & -2
\end{pmatrix}A
\begin{pma...
...d{pmatrix}=
\begin{pmatrix}
3 & -220\\
0 & -440
\end{pmatrix}\end{displaymath}

今度は再び1行で同様な操作を行う。 (1,1)-成分が段々``小さく''なっていくことに注意。

\begin{displaymath}\begin{pmatrix}
17 & -1 \\
33 & -2
\end{pmatrix}A
\begin{pma...
...d{pmatrix}=
\begin{pmatrix}
1 & 0\\
440 & -1320
\end{pmatrix}\end{displaymath}

最後にもう一度第一列について同じことをする。

\begin{displaymath}\begin{pmatrix}
1 & 0 \\
-440 &1
\end{pmatrix}\begin{pmatri...
...end{pmatrix}=
\begin{pmatrix}
1 & 0\\
0 & -1320
\end{pmatrix}\end{displaymath}

結局、

\begin{displaymath}P=
\begin{pmatrix}
17 & -1\\
-7447 & 438
\end{pmatrix},Q=
\begin{pmatrix}
-226 & 681\\
151 & - 455
\end{pmatrix}\end{displaymath}

と置けばよい。

うえのような計算がいつでも止まることをいうには、 「PID のイデアルの増大列がいつでもどこかでとまる」という事実に 注意すればよい。この事実自体は代数Iですでに出てきているはずである。 全く同じことをするのはばかばかしいので、 あとあとのためも考えてこの事実の拡張である、 一般のネーター環の特徴付けについての補題を証明する。

補題 10.1  
1.
可換ネーター環 $R$ のイデアルの増大列

\begin{displaymath}I_0\supset I_1 \supset I_2 \supset I_3 \supset \dots
\end{displaymath}

は必ずどこかで止まる。すなわち、ある $N$ があって、そこから先は

\begin{displaymath}I_N= I_{N+1} \supset I_{N+2}=I_{N+3}= \dots
\end{displaymath}

がなりたつ。
2.
逆に、可換環 $R$ が「$R$ のイデアルの増大列は必ずどこかで止まる」 という性質をもてば、$R$ はネーター環である。

問題 10.1   $R={\Bbb C}[X]$ とする。$R$ 上の行列 $A$ を下のように決めるとき、 定理10.1 の $e_1,e_2,\dots$ にあたるものをそれぞれ求めよ。 (理由付けをきちんと書いてあれば、とくに $P,Q$ を求める必要はない。)
1.

\begin{displaymath}A_1=\begin{pmatrix}
X^3+X-1 & X^2+X+1
\end{pmatrix}\in M_{1,2}(R)
\end{displaymath}

2.

\begin{displaymath}A_2=\begin{pmatrix}
X & 0 \\
X^5 & 1
\end{pmatrix}\in M_{2,2}(R)
\end{displaymath}

3.

\begin{displaymath}A_3=\begin{pmatrix}
1 & 1 & 1 \\
X & (X+1) & (X-1) \\
X^2 & (X+1)^2 & (X-1)^2
\end{pmatrix}\in M_{3,3}(R)
\end{displaymath}

(ヒント: $\operatorname{det}(A_3)$ はいくらか?)
4.

\begin{displaymath}A_4=
\begin{pmatrix}
X & X & X^2\\
X^2-X & 2 X^2 & X^3-X^2\\
X^2 & X^2 & X^3
\end{pmatrix}\in M_{3,3}(R)
\end{displaymath}


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Yoshifumi Tsuchimoto
2000-12-04