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代数学 II 要約 No.9

\fbox{正標数の体}

補題 9.1   環 $R$ が与えられているとする。このとき、 環準同型

\begin{displaymath}\phi: {\mbox{${\Bbb Z}$}}\to R
\end{displaymath}

が一意に存在する。$R$ が整域(とくに、体)ならば、$\phi$ の核 $\operatorname{Ker}(\phi)$ ${\mbox{${\Bbb Z}$ }}$ の素イデアルである。すなわち、次のいずれかが起こる。 この二つは、まとめて次のように書くことも出来る。

\begin{displaymath}\operatorname{Ker}(\phi)=n{\mbox{${\Bbb Z}$}}\quad \text{{\rm (}$n$ は素数または0\rm {)}}
\end{displaymath}

定義 9.1   体 $k$ が与えられているとする。このとき、上の補題の $n$ のことを、 $k$ の標数といい、 $\operatorname{char}(k)$ とかく。

例 9.1   $\mbox{${\Bbb Q}$ }$, $\mbox{${\Bbb Q}$ }[\sqrt{2}]$, $\mbox{${\Bbb R}$ }$, ${\Bbb C}$ などの標数は全て $0$ である。 いっぱんに、 $\mbox{${\Bbb Q}$ }$ を部分体として含む体の標数は $0$ であり、逆に 標数 $0$ の体は $\mbox{${\Bbb Q}$ }$ を部分体として含む。

標数が $0$ でない体を正標数の体という。

例 9.2   ${\Bbb F}_p={\mbox{${\Bbb Z}$ }}/p{\mbox{${\Bbb Z}$ }}$ の標数は $p$ である。

補題 9.2   (体を作る方法)

1.
$k$ が体で、$k[X]$ の既約な元 $f$ が与えられているとすると、 $k[X]/(f)$ も体である。
2.
$k$ が体ならば、$k(X)$ も体である。

補題 9.3   体 $k$ の標数が $p$ $ {\Leftrightarrow}$ $k \supset {\Bbb F}_p$.

定理 9.1   体 $k$ の元の個数 $q$ が有限ならば、$q$ はある素数 $p$ の巾乗である。 すなわち、ある整数 $n$ があって、

\begin{displaymath}q=p^n
\end{displaymath}

がなりたつ。

定理 9.2   標数 $p$ の体 $k$ が与えられていたとする。このとき、次のことが成り立つ。
1.
$k$ の任意の元 $a,b$ について、

\begin{displaymath}(a+b)^p=a^p+b^p
\end{displaymath}

がなりたつ。
2.

\begin{displaymath}F: k\ni x\mapsto x^p \in k
\end{displaymath}

$k$ ${\Bbb F}_p$ 上の自己準同型写像を与える。 (この自己準同型写像をフロベニウス写像と呼ぶ。) $k$ の位数が有限ならば、フロベニウス写像は $k$ の自己同型をあたえる。

3.
$f(X)=X^p-c$$k[X]$ の既約元であったとする。このとき、 $K=k[X]/(f)$$k$ の拡大体であり、$X$$K$ でのクラスを $a_0$ とかくと、 $K[X]$ では、

\begin{displaymath}f(X)=X^p-c=(X-a_0)^p
\end{displaymath}

がなりたつ。 もっと一般に、$k$ の拡大体 $L$ があって、 $L$ の元 $a$$a^p=c$ を満たすならば、

\begin{displaymath}f(X)=X^p-c=(X-a)^p
\end{displaymath}

がなりたつ。

問題 9.1   出席番号偶数の諸君には、 $\epsilon=1$ とし、奇数の諸君には、 $\epsilon=-1$ とする。
1.
$f(X)=X^2+\epsilon X-1 \in {\Bbb F}_3[X]$ は既約であることを示しなさい。
2.
$K={\Bbb F}_3[X]/(f)$ における $X$ のクラスを $\alpha$ とかくことにする。 $K$ の元 $a+b\alpha$ ( $a,b\in {\Bbb F}_3$)に対して、 そのフロベニウス写像による像 $F(a+b\alpha)$ を、 ${\Bbb F}_3$ 係数の $\alpha$ の一次式であらわしなさい。
3.
$K$ の元 $\beta$ で、 $\beta^2=-1$ を満たすものを すべてもとめ、 ${\Bbb F}_3$ 係数の $\alpha$ の一次式であらわしなさい。

問題 9.2   位数 $q=p^r$ の体 $k$ が与えられていたとする。このとき、 $k$ のフロベニウス自己同型 $F$ の位数を求めよ。すなわち、 $F^l=(\text{恒等写像})$ となるような最小の正整数 $l$ をもとめよ。 (ヒント:$k^\times$ は有限群なので、その全ての元は $x^{q-1}=1$ をみたす。 したがって、 $k=\{x\in k; x^q=x\} $ がなりたつ。体上の $n$ 次方程式は $n$ 個以下の解しかもたないことにも注意せよ。)


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Yoshifumi Tsuchimoto
2000-06-21