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代数学 II 要約 No.3

\fbox{多項式環の剰余環・多項式の既約性}

定理3.1から3.3 は大変重要である。証明は次回にする。

定理 3.1   任意の体 $k$ に対して、$k[X]$ は単項イデアル整域である。 すなわち、$k[X]$ は整域であって、しかもそのイデアルは全て単項イデアル $($一つの元で生成されるイデアル$)$である。

定理 3.2   体 $k$ と、$k[X]$ の元 $f$ をとる。$($但し$f$ は定数ではないとする。$)$このとき、次は同値である。
1.
$k[X]/(f)$ は整域である。
2.
$k[X]/(f)$ は体である。
3.
$f$ は既約多項式である。

定理 3.3   体 $k$ と、$k[X]$ の既約元 $f$ をとる。$($但し$f$ は定数ではないとする。$)$このとき、 $K=k[X]/(f)$ とおき、$X$$K$ での同値類を $a$ と書くと、 次のことが成り立つ。
1.
$K$$k$ を含む体である。
2.
$K=k[a]$.
3.
$f(a)=0$.
4.
$[K:k]=\deg(f)\quad(\text{$f$\space の次数})$.

上のことにより、既約な一変数多項式 $f$ をきめることで、 $k$ の拡大体を得ることができる。では、$f$ が既約であるかどうかは どうやってわかるのだろうか?本講義ではつぎの諸事実を用いる。

事実 3.1   次のような $f\in k[X]$ は、それぞれ既約多項式である。
1.
一次式。
2.
二次式または三次式で、$k$ のなかに根をもたないもの。

補題 3.1  
1.
$R$ が整域なら、$R[X]$ も整域である。
2.
可換環 $S$ のイデアル $I$ にたいして、

\begin{displaymath}J=\{ f\in S[X]; \text{$f$ の全ての係数は $I$ の元である}\}
\end{displaymath}

$S[X]$ のイデアルであり、同型 $S[X]/J\cong (S/I)[X]$ が存在する

補題 3.2 (ガウス)   多項式 $f\in {\mbox{${\Bbb Z}$ }}[X]$ が、 ${\mbox{${\Bbb Z}$ }}[X]$ の元として既約ならば、 $\mbox{${\Bbb Q}$ }[X]$ の 元としても既約である。

定理 3.4 (アイゼンシュタイン)   ${\mbox{${\Bbb Z}$ }}$ を係数にもつモニックな多項式

\begin{displaymath}f(X)=X^k+a_{k-1}X^{k-1}+a_{k-2}X^{k-2}+\dots+a_0
\end{displaymath}

が、ある素数 $p$ に対して、次の二つの性質をもつとする。
1.
$f(X)=X^k \quad({\operatorname{mod}}p)$
2.
$f(X)$ の定数項は $p^2$ で割り切れない。
このとき、$f$ $\mbox{${\Bbb Q}$ }$ 上既約である。

次のこともよく用いる。

定理 3.5   任意の $f\in k[X]$ と任意の定数 $c\in k$ に対して、

$f(X)$ が既約 ${\Leftrightarrow}$ $f(X+c)$ が既約.

定理 3.6   モニックな整係数多項式 $f(X)\in {\mbox{${\Bbb Z}$ }}[X]$ が与えられていたとする。もし ある素数 $p$ に対して $f$ ${\mbox{${\Bbb Z}$ }}/p{\mbox{${\Bbb Z}$ }}$ 係数の多項式として既約なら、 $f$ $\mbox{${\Bbb Q}$ }[X]$ の元として既約である。

問題 3.1   次の多項式は既約であることを示しなさい。
1.
$X^2-2 \in \mbox{${\Bbb Q}$ }[X]$
2.
$X^3-X+2 \in ({\mbox{${\Bbb Z}$ }}/5{\mbox{${\Bbb Z}$ }})[X]$
3.
$X^4+7X^3+15X^2+13X+7 \in \mbox{${\Bbb Q}$ }[X]$

問題 3.2   有限体 $k$ が与えられているとする。 このとき、 $k$ 上の二次の多項式

\begin{displaymath}f(X)=X^2-X+c
\end{displaymath}

が既約になるような $k$ の元 $c$ が必ず存在することをしめしなさい。



Yoshifumi Tsuchimoto
2000-05-01